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55話 そして、大団円

 そして夜――。

 とうとう≪アナザー・ロージア≫の正式なお披露目のときが来た。


 皇帝の挨拶の後にメンバーが呼ばれる予定で、ミネルヴァたち6人は控えの間で待機をする。マーガレットが作ったきらびやかな衣装に揃いのマントを身に着けると、いつもよりも迫力が増す。

 ようやくこの日が来た、と思うと、ミネルヴァはワクワクが止まらない。と、それは他のメンバーも同じようで、さきほどから控えの間では会話が途切れることがない。


「音楽が許される日が来るなんて、思ってもみませんでした! 今日は生まれて一番幸せな日です!」

「本当に。覚悟はしていましたが、あのまま捕まっていたら国外退去はまぬがれませんでしたからね」

「僕の成長をアレックスに見せつける、いいチャンスです!」

「まあね。アレックスの居場所がもうないってことを、理解させてやらないと」

 4人は好き勝手なことを言い、アレックスは「ふざけるな」などと言いながらも、ひどく嬉しそうだ。


 控えの間と広場を遮る重いカーテンの隙間を除くと、赤絨毯の上でニコライが民衆の前に立ち、挨拶をしているのが見える。

「今日は、広場で見苦しい目を見せてしまって申し訳なかった。慣例を重んじるあまり、あのような行動に出てしまったことを、我が従弟アレックスにもみなにも謝罪したい。

 哀しみは時が癒し、その傷跡には喜びの記憶だけが優しく寄り添ってくれるもの。許されるのであれば、再び私が帝位に立って、みなとともに哀しみにとらわれることのない新しいアステル国を造り上げていくことを約束したい。

 そして、私の反省の証として、本日より音楽をみなに返そうと思う!」

 

 集まった群衆からは、ワーーッと大きな歓声があがる。

 どこからか、ピーっと草笛や指笛の音、太鼓のようなものを叩く音までする。

 そして、「ニコライ陛下、万歳」の声。


 どうやら、ニコライに反発の声が上がることはなさそうだ。ミネルヴァはほっと一息をつく。


「……そして今宵は、みなに聖イーグルのプレゼントがある。とびきり美しく、どんな金よりも、もっと輝いている5人だ」

 そして、ニコライはひとりずつ名前を呼ぶ。

「アレックス・ド・アステル・カーヴァー、リアム・ハートリー、バートラム・グリーン、レイ・リスボン、ダグラス・ポート。……≪アナザー・ロージア≫の5人だ!」


 5人が広場へと姿を現すと、老若男女の大歓声が響き渡る。

 ダグラスが手に入れたばかりのピカピカのトランペットを吹き上げる。

 驚くことに、ダグラスの後ろには数人の兵士や町人がいて、すでにカホンやドラム、シンバルなどの楽器を構えて、合わせて音を立てている。


 どこかで仕込んだのか、それともこっそり練習していた人たちが他にもいたのか……。付け焼刃の合奏とは思えない仕上がりに、ミネルヴァは笑いがとまらない。


 おまけに会場を見渡せば、集まった民衆がみな同じゴールドのリボンをつけたキャンドルスタンドを手にしている。暗い会場全体にぽつぽつと優しい灯がともり、まるで5人が星空に囲まれているようだ。

 ふと会場の端を見ると、ラミー・ブックストアの店主がえびす顔でキャンドルを売るためのワゴンを引いている。……まったく、商売上手な店主だ。


 キャーッという黄色い歓声を黙らせたのは、アレックスのビロードのような歌声だ。


「♪傷ついた羽を抱え~」

 

 やっぱりこれだ。この声なのだ。

 自分が虜になった、耳をなでるような低く甘い歌声。


 アレックスが手を伸ばせば、その先にいる女性たちから再び甘い歓声があがる。リアムがふざけてレイの髪の毛をくしゃっとすると、微笑ましそうな笑い声があがる。酔っ払いがふざけてちゃちゃを入れようとすると、バートラムが慇懃無礼にお辞儀をするので、思わず酔っ払いまでおじぎで返してくる。

 そして、空高く澄んで響くダグラスのトランペットの音色。


 気づけば、集まった民衆の一番前には、アンナやシュゼット嬢、マーガレット夫妻が陣取っている。

 マーガレットも歌声を聴いて少しは癒されているのだろうか。


――うん。きっと大丈夫。

 友人と夫に肩を抱かれて、気丈に微笑んでいるのが見える。


 みんなが≪アナザー・ロージア≫を見て、笑っている。泣いている。心を動かしている。

 その事実だけで、ミネルヴァは胸がいっぱいになる。揃って声を張り上げて歌う5人が本当にキラキラと輝いていて、冬の澄んだ夜空に、暖かなキャンドルの光の中に、そのまま溶けてしまいそうに見える。


「ミネルヴァ」

 ふと後ろから声をかけられてふりむくと。

「おばあさま!」

 皇太后はいつも通り杖に体を預けて、無表情にも近い静かな笑みを浮かべている。

「大鷲は建国と同時に、芸術の女神を連れてきたとも言われています。

 それはもしかしたら、あなたのことだったのかもしれませんね」


 芸術の女神、アメルデ。リリアンヌに似たその面差しを思い浮かべる。

『ありがとう。ミナホ』

 どこからか、前の世界で聞いたことがあるような懐かしい声が聴こえた気がした……。


ー完ー


最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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