10話 ガールズトークはティーサロンで
ミネルヴァがお茶会を開く日がやってきた。
場所はミネルヴァがお気に入りの南向きのティーサロン。ブルーにピンクの縞柄の壁紙に囲まれた甘い空間は、まさに女子会にぴったりの場所だ。
「ミネルヴァ様、ドレスはどちらにされますか?」
アンナがテキパキとクローゼットからドレスを持ち出し、ミネルヴァの前に差し出す。
ピンクのオフショルダードレスは、露出が多くフリルも多いデザインだが、色味がスモーキーなトーンなので下品になりすぎない。グリーンのベルベッドのドレスは、装飾が少ない分、金の刺しゅうが際立っており、スレンダーなミネルヴァによく似合う。
いつも以上に気合の入ったチョイスに、ミネルヴァは少しだけ圧倒される。
「サロンの装飾に合わせて、ピンクのドレスにするわ」
ミネルヴァがそう言うと、アンナは満足気に頷いた。
「にしても、アンナ。すごい気合の入りようね」
「もちろんでございます。以前のミネルヴァ様は、お茶会を開くことなんてめったにありませんでしたから……」
と言ったところで、アンナは失言をしたと思ったのか頭を下げる。
「失礼いたしました」
「ううん。いいの」
ミネルヴァに対する周りの対応から、なんとなく以前のミネルヴァの性格はわかってきた。
おそらく控えめな女性で、口数も多いほうではない。淡い色調のドレスや落ち着いた調度の好みからも、明るく活動的なタイプではなかったはずだ。
――今の私は、どんな風に見えるのかしら。
――この間みたいに、失敗しないようにしないと。
ミネルヴァは気合を入れて、サロンへと向かった。
……
皇女からの呼び出し、だからだろう。ティーサロンには、すでに招待したご令嬢たちが集まっていた。
ダドリー公爵家のサラ嬢、リスボン侯爵家のシュゼット嬢、そして先日の失言の相手でもあるルーヴル公爵家のマーガレット嬢。
「お招きいただき、ありがとうございます」
3人が口々に言う。マーガレット嬢以外の人選はアンナにまかせたが、皆それなりに王室に近い貴族のご令嬢なのだろう。
「マーガレット、先日は失礼な口をきいてごめんなさいね。まだ気分がすぐれないことが多くて」
ミネルヴァが口を開くと、空気が一瞬ピリっと張り詰めるのがわかる。
「いえ。ミネルヴァ様。私の方こそ失礼な態度をとってしまったことを謝罪いたします」
マーガレットがスカートの裾を持ち、これ以上ないぐらい深々とお辞儀をする。
白いレースのビスチェにペールイエローのチュールスカート。他の令嬢がごてごてとクラシカルなパフスリーブのドレスで飾っているからか、とても洗練された着こなしだ。
――慇懃無礼な態度はともかくとして、洋服のセンスは嫌いじゃないわね。
ミネルヴァの母方の親戚であることからわかる通り、ルーヴル家はアステル国では権力を持つ一族らしい。きっと蝶よ、花よと可愛がられてきたのだろう。不遜な態度からもそれがよくわかる。
「今日は、この国のことをもっと教えてほしくて。お兄様も皆さまも、本当によくしてくれてるけれど、やはり記憶がないと不安になってしまって……。ほら、皆、私に気を遣って何も話してくださらないから」
ミネルヴァは、流れてもない涙をレースのハンカチで押さえてみる。
「……ミネルヴァ様」
「なんでも私たちに聞いてくださいませ! 私たち、お茶会ぐらいしか楽しみがないんですもの!」
いかにも善良そうなサラが一緒に涙ぐんでいると、シュゼットが勢いづいて続けてきた。
――なるほど、いい人選じゃない。
アンナの慧眼には恐れ入った。お茶会の目的をよく理解しているらしい。




