旅立ち
私は、ここを去る理由に運命を感じたりはしない。
自然であり、必然。飽きたから。
どんなに立ち止まっていても、人とは流され続けるもの。
それならば、少しでも流れに逆らいたいと思うのが、
天邪鬼の本懐なのだ。
長閑な田舎は好きだが、どうにも詰まらない。
建ち並ぶ高層ビルは腹立たしいが、利便に事欠かない。
無いようで、有る。また、有るようで、無い。
そんな環境を求めて、私は旅立つ。
結局のところ、風になりたいのだと思う。
風にはなにか〝ここに吹いてやろう〟とする意思が感じられる。
それすらも、世界の大きな流れの一部であることは理解しているが、
命を揺らすという意味では、漂う雲ではいけないのだろう。
雲を運ぶ風でなくては。
北国へ行こうと思う。
何故ならば、寒さに凍えたいから。
自分という無力を抱きしめて、筆を走らせたい。
大好きな酒すらも凍らせてしまうくらいの極寒が良い。
心の要らない部分を凍傷で壊死させて、
輝く丸い玉にしてみたいのだ。
そのあとは、歴史深いところに行きたい。
何故ならば、始まりを見つめたいから。
自分という存在が形と成るまでの、小さく細い川。
そのどこかに必ず源泉があるはずで、私はそれが、
秋の紅葉を伝う一滴の水玉であって欲しいと願う。
大地から湧き出るなど、荷が重いから。
そのあとは、きっとそうだな。
流れる。流されながらでも、なんとか流れる。
台風に怯えるくらいの軽い命では、全てを知るには心もとない。
なにも分からずに死んでいく。それだけが分かっている。
だからこそ、両手の指が十ある理由を探し続けるのだと思う。
私という人間の旅立ちが、
ふっと、あなたの前髪を揺らしたなら、
くすぐったがるその指先を見て、
安堵の吐息を漏らすのだろう。
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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この作品を通して伝えたかった事……とまですると、少々言い過ぎな気もするが、私が大事だと思っていることが一つあります。それは、どんなに自分のルーツを辿っても、どんなに自分の中の世界を広げようとも、結局人間は、目の前の小さな変化に安堵するということ。
自分を特別だと認識することは、とても大事だと思います。謙虚であるより、自己中心であった方が、人生は楽しいのであろうとも思います。それでも結局、世界から見れば、宇宙から見れば、星の命と比べれば、私たちはあまりにも小さい。
それだから、目の前の前髪を揺らせただけで、安堵するのだと思います。




