春を生きる
春が似合う人
それは、悲しい人だと思います
キラキラとした出会いの奥に、
数知れぬ別れを背負っているのです
あなたがそっと笑うとき、
誰かの涙が零れます
季節の移り変わりとともに、
人の心情もまた、移り変わってゆくものなのでしょう
春が似合う人
それは、残酷な人だと思います
束の間の陽気で惑わせて、
刺繍を施すように、未来の悲しみを創り上げているのです
黄色い蝶々が二匹、
無邪気な愛を育んでおります
ひらひらと舞う愉しさの末に、
頭を切り離されるような寂しさが待っているとも知らずに
春が似合う人
それは、自己中心的な人だと思います
自分さえ目立てれば良いのだと、
散りゆく無数の花びらで、水面を埋め尽くすのです
誇れるときには見上げさせ、
去り行くときには下を向かせる
あなたにさえ出逢わなければ、
美しくなければいけないなどと、思わずに済んだのではないでしょうか
春が似合う人
それは、罪深い人だと思います
寒さを乗り越えた先にある温もりで、
夥しい数の中毒患者を生み出しているのです
凍えるような苦しみからも、自己否定の侘しさからも、
いつもあなたが救ってくれる
私たちはいつの間にか、
あなたなしでは生きられない身体になってしまったのです
春が似合う人
それは、人の形なのだと思います
儚さという名の餌をぶら下げて、
抱えきれぬ夢を見せるのです
どんなに憎もうと、どんなに貶そうと、
愛さずにはいられません
春とは、人間そのものであり、
私たちもまた、人間なのだから
終わりの知れた春を生きる、
ひとつの小さな命なのだから
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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春の綺麗さの中にある残酷さ。
今という心地よさと、必ず訪れる別れ。
短ければ短いほど、悲しみは薄く、長ければ長いほど、壮絶となる。
人間は、自らの命の儚さを春と重ね合わせ、故に、春を慈しむのだと思います。
儚いもの=尊く美しいもの
そう思い込まなければ、ひとりひとりの人生が滑稽になってしまうのを恐れているのです。




