【怖】鮮血
生レバーのような夢を見た。
どこか鮮明で、生臭くて、
それでも決して暗くはなく、
艶光る命の色彩。
脈打つ部屋。
私の中のどす黒い血溜まりが、
しぶきを上げる細やかな赤に染め上げられていく。
嫌悪も憎悪もない。
あるのは優しい微笑みだけ。
清々しい朝にゆすり起こされるように、
そっと目を覚ます。
私には、あらゆるものが欠けている。
突出して早くも走れず、
空ひとつ飛べやしない。
水の中では生きられず、
陸地の上ですら息苦しい。
だから人間ってものは嫉妬をする。
嫉妬とは、醜いものなんかではなく、
自分より秀でた者に憧れ、
ある線では認めているからこそなのだと思う。
であれば、嫉妬は美しいものだと思う。
それだから、私はあなたに嫉妬した。
私の最愛を奪い去ったあなたに。
だって、それは私より、
あなたの方が優れていたということに他ならないから。
私は当然に憧れ、
当然に嫉妬したまでです。
悔しいなんて気持ちは、とうの昔に忘れてしまいました。
もう何十年と、この身体で生きてきたのです。
自分自身の背丈も、すぐにささくれるこの指も、
ぼやける視界も、うなじのムダ毛ですら理解しています。
私ってものをどうしようもなく知ってしまったのです。
悔しさなど生まれる余地がありません。
でも、あなたのことは良く知りません。
生まれてこの方、出会ったことがありません。
その顔も、声も、輪郭も、
すべてが未知だったのです。
だからこそ、知りたいと思える余地があったのです。
私はあなたに嫉妬すると共に、
興味本位に支配されたのです。
謝ることなどありません。
謝るつもりもありません。
きっと代わりばんこなんです。
次は、あなたの順番なんです。
生レバーのような夢を見た。
実に鮮明で、香ばしくて、
舌舐めずりすらしてしまう。
達成感と虚無の間の夢心地。
脈打つのを止めた部屋。
私の中のどす黒い血溜まりは、
しぶきを上げる鮮血に染め上げられました。
未練も後悔もない。
あるのは程よい哀愁だけ。
清々しい朝に叩き起こされるように、
否応にも目を開くのです。
私はたった今、あなたの最愛を奪いました。
次は、あなたの順番なんです。
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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単刀直入に『人怖』です。
作中の〝私〟は、自分自身の被害意識を薄めるかのように、自己肯定に走ったのです。
一見、自分を卑下しているようで、その実、自分の犯そうとしている罪を肯定し、無理やりな理屈で埋めていったのです。
これは夢だったのか……自分自身を捨てた結果、現実を理解できなくなっているのか……




