Running Man
僕は走る。
荒れる太平洋を横目に、海沿いの道をひた走る。
目的地なんてない。
ただ、前に脚を運ぶんだ。
遠くへ。
別に特定の場所から離れたいわけじゃない。
なにかから逃げたいわけでもない。
とにかく、遠くへ。
今いる場所よりも、もっともっと遠くへ行きたい。
暴風に煽られ、岸壁に打ち付けられた波しぶきが、
どんなに荒々しくこの顔に降り注ごうとも、
僕は神なんて信じない。
果てしなき水平線を見ようとも、
継ぎ目のない雲に覆われた曇天を見上げようとも……信じない。
356,000km。
高低差を度外視した場合における、この地球上の海岸線のおおよその総距離。
人間ひとり、一日100kmを毎日休みなく走り続けて、十年。
それが、この地球上の海岸沿いを走るのに要する時間。
ある日は嵐に見舞われるでしょう。
北国では、雪に足を取られるでしょう。
神の代表作が人間だというのであれば、
僕たちのスペックはあまりにも疎かだ。
人間ひとりの一生では、世界など到底走破できない。
仮に地上を走破したとしても、その二倍を超える海が残っている。
そんなの、生まれながらにして、不可能じゃないか。
確かに、今は人工衛星もあります。
ネットワーク上であれば、地球の反対側も覗けます。
それがなんだと言うのでしょうか。
僕のこの目で直に見なければ、
それは僕の知る世界ではない。
それは、〝世界の示す世界〟でしかない。
人間が、情報の共有で世界を知った気になるのであれば、
それは、ウイルスと何ら変わりない。
僕は走る。
一歩一歩移り行く世界を横目に、海沿いの道をひた走る。
目的地はないけれど、明確な終わりはある。
限りある命を削りながら、ただ、前に脚を運ぶんだ。
遠くへ。
別に、世界のすべてをこの身で証明したいわけじゃない。
創られた虚像から、逃げ出したいわけでもない。
とにかく、遠くへ。
今いる場所よりも、もっともっと遠くへ行きたい。
その先にきっと、
僕の命の価値があると信じて――
お読みいただき、ありがとうございました。
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【※この先は、作者による作品解説です。
自己解析・自己考察を含みます。
読後の余韻を大切にされたい方は、ここで読むのをお止めください】
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今作は『ランニングマン』というタイトルのワンアイテム発進だったので、本当は青春キラキラ部活動物語にしたかったのですが、冒頭で〝僕〟が走り出した瞬間に、性格がひねくれてしまいました。
結局は、いつもの私らしい文体となってしまいましたね。
もし仮に、キラキラ部活動物語であった場合でも、この作品の主題は変わりません。
それは『期限』と『脚』です。
青春であれ、人生であれ、短い期限であることに変わりはない。
それならば、この脚を前に運ぶしかない。
走るは比喩であり、それが執筆でも、仕事でも、趣味でも、変わりはない。
やらなければ、前に進まなければ……そこに立ちすくんでいるだけでも、ゴールテープの方から迫ってくる。
それが、人生だと思うのです。




