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04 桜の季節


「さて、土下座はこのくらいにしておきまして……クエスト、何受けます?」


 カノンはよっこいしょ、と年寄りじみた声を出して立ち上がる。

 急に立ち上がったせいか、強烈な貧血で視界がグルグルと回った。


(薬草採取、オーガの群れ討伐、スライム10体討伐、ゴブリン討伐、か。 薬草採取は簡単すぎるし、オーガは二人の実力が分からないうちは無理だな。 スライムなんて立ち回り確認するまでもないし__消去法でゴブリン討伐か)


 群れでもないようだし、何体の討伐か記載していない所に違和感を感じる。

 だが、カノンはそこまで気に留めずに2人にクエストを勧める。


「ゴブリン討伐でいいですか?」

「あぁ。 戦えるなら俺は何でもいい」

「私も同じだ! ところで、カノンはいつまで敬語なんだ?」

「えっ……」


(そうか、普通パーティー内で敬語なんて使わないのか)


 改めて、前に所属していたパーティーの異常さを知る。

 カノンは横目でチラリと二人を見ると、今提示したクエストの詳細を確認している。


(前はクエスト詳細なんて気にする人、私しかいなかったのに……。 なんだか不思議な光景だな)


 クエスト詳細を確認するのは、冒険者として当然の行為だが、それを教えてくれる人も一緒に確認してくれる人もカノンの近くにはいなかった。


 この二人と出会って良かった、と切に願った。そして、大切にしよう、とも。


「詳細確認できまし……できた? 立ち回りとか見るのに向いてると思ったんだけど」

「……むっ! やはり、敬語じゃない方が仲間という感じがしていいな! 詳細は問題ないぞ」

「あぁ、数についての記載がないのは気になるが、別に珍しいことでもねぇしな。 カスミ村か、地味に遠いな」


 カノンは、二人の承諾を得て密かに胸をなでおろす。

 前のパーティーとは違う、と思っていても長年身に染み付いた感覚はすぐには消えない。


「せっかくだ、このクエストでリーダーを決めねぇか?」

「……っえ」


「あ? 何か文句あんのか?」


 天使族とは皆こんなどすの利いた声が出るのだろうか。


(完全に私がリーダーだと思い込んでた……。 恥ずかしいっ!)


「ふむ、じゃあ一番頼りになった人がリーダー、というのはどうだ?」

「良いんじゃねぇの?」

「私もそれで大丈夫」


「じゃあ、ゴブリン討伐にれっつごー!」


 おー!という返事を待ち望んだカノンだったがが、いつまでたっても帰ってこない。

 勢い良く上げた拳が、力無くカノンの肩辺りまで下がる。

 カノンの顔は燃えるように赤い。


「穴……穴はどこ……」

「すまん! やり慣れてなくてな!」

「普通にダリィ」




 * * *



「おい、いつまでウジウジしてんだ。 見てるこっちがイライラしてくんだよ」

「だってぇ……」


 あの後、カスミ村行きの行商の荷台に、護衛代わりとして乗せてもらっている。

 先程のやり取りを未だ引きずっているカノンは、馬車の揺れに揺らされながら、自分の足元を凝視していた。


「おぉ……すごいなっ!」

「こんな花あったか?」


 二人の上ずった声を聞いて、カノンは今し方の黒歴史を忘れ、反射的に顔を上げる。


「わぁっ……」


 視界一面が、華麗に咲いている、淡い桃色の小ぶりな花に支配された。

 一つ一つ小さい花のはずなのに、どれも負けじと存在感を放っている。

 甘く、サッパリとした香りがカノンの鼻を擽る。

 初めて見る花だが、春を顕現したような花だった。


「サクラっていうんでさぁ」

「行商のお爺さん……物知りですね」

「まぁ、伊達に商人やっちゃいませんよ。 東方の国が発祥の花でさぁ。 近年、輸入に成功したんだと、商人の間で話が盛り上がってるんですわ」

「へぇ……」


 その時、柔らかな風と共にサクラの花弁が空に舞い上がる。

 光っているわけではないのに、どれも輝いて見えた。

 1秒に何枚もの花弁が、舞踏会にいるかのようにひらりひらりと舞い踊る。

 風で揺れる枝の音が、花弁の舞姫を鼓舞するようにさわさわと活気ずける。

 


(昼の星空みたい……)


 白藍色の空を自由に舞う淡い桃色の花弁は、息を飲むほどに美しかった。

 しかし、それと共に押し寄せてくる花が散る虚しさ。

 1秒に大量の花弁が、舞い踊りに登壇し、踊りきると力尽きるように地面に落ちる。

 そう考えると、この時間がはやく終わればいいのに、と思わざるを得なかった。


 けれども、今のカノンには、虚しいという感情すらも愛おしく思える。


 まだ散らないで欲しいという願望と、もっと長く見ていたいという願望が均衡して、言葉に表せない感じたことのない、名も無き感情にカノンは浸った。


「そんな悲しい顔しないでくだせぇ。 来年にもサクラは咲きます。 そんで、来年またこの荷台にでも乗ってくだせぇ」

「……次はもっといい荷台にしてくださいね」

「がははっ!こりゃ一本取られましたな」


 優しい香りと暖かな風に乗った花弁に背中を押されながら、カスミ村へと向かった。

 到着した私たちを出迎えたのは、先程の桜吹雪に負けない輝きを頭に宿した長老だった。


「ブッフォッ! あっははっはっ! ひー…」


 大爆笑しているノエルが、アリスに叩かれて吹っ飛んだのは内緒話だ。

2/20 更新

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