03 寝坊
「ん__」
カーテンの隙間から差し込む春の陽光が、スポットライトの様に部屋を明るく照らす。
外では鳥の囀りがリズムを刻むように、一定のテンポで耳に入って心地よい。
昨日、質問攻めに会って疲れ果てたカノンは部屋着に着替えたや否やベットに飛び込み、重いまぶたを下ろした。
随分、快眠だったのだろう。
いつもなら一回で起きるはずのカノンのまぶたがもう一度下がりかけるが、必死に抵抗する。
「ベットの心地よさは一体どこから来るのよぉ……」
春の睡魔には勝てなかったのだろう。
今日ぐらい二度寝したっていいよね……そう、自分を甘やかしながら寝返りをうつと、壁にかかっている時計が目に入った。
(9:30か、よく寝たな。 どうせソロだし、今日は休みでも……ん、待てよ? 確か今日ってノエル達とクエストを受注する日じゃなかったっけ……?)
一気に、冷や汗が流れる。
大丈夫、大丈夫。集合時間はもうちょっとあったはず。
そう、現実逃避しながら昨日の出来事を必死に思い出した。
* * *
「なんで全属性の奴がパーティー募集なんてしてんだ? ソロでも充分戦っていけるだろ」
「その、自分で言うのもなんですけど……魔術以外からっきしで。 前はパーティーを組んでいたんですけど、追い出されちゃって、仕方なく」
「ぁ゙? 全属性使える奴を追いだすパーティーなんて存在すんのか?」
「まぁ、言ってなかったですし。 中々、冒険者生活に慣れずに言うタイミングを失ったまま追い出されまして。 ……だって、気付かないとかあります?」
「俺だったら一日で気付くな。 そいつら、本当のバカじゃねぇか(笑)」
心底馬鹿にしているのだろう、ノエルの綺麗な顔は、悪魔のようにいやらしい笑みを浮かべていた。
天使族のそんな笑みにドン引きしつつも、ノエルなりの励ましではないかと思うとすこし驚いた。
「全属性を使える人は世界に3人しかいないと聞くぞ! カノンはすごいな!」
「まぁ、そうだな。 そんな奴が仲間なら心強いわな。 本当かどうかは置いておいて」
「……ありがとうございます」
褒められるとはこんなに心地良いものだっただろうか、そうカノンは久しく味わっていなかった喜びを噛み締めた。
ノエルはすこし疑っているようだが、先程の言葉は励ましではなかったのだろうか。
「提案なのだが、明日クエストを受けてみないか? 2人の実力を知れるいい機会になりそうだ」
「おぉ、チビのくせにいい案だすじゃねぇか。 じゃあ明日ここ集合な」
「チビは関係ないだろう?!」
可愛らしく頬を膨らませるアリス。
小さいアリスが頬を膨らませると、口一杯に食べ物をいれている小動物みたいで余計に子供らしさが増す。
正直言って可愛い。
「じゃあ、明日9:30集合な。 遅れんじゃねぇぞ」
「あぁ、任せろ!」
「私、寝坊したことないので」
* * *
「ふむ……やばくないか?」
急いで布団を蹴っ飛ばしてベットから出ると、クローゼットを力一杯開ける。
一番近くにあった適当な服を着ると、洗面台に入って歯を磨く。どれだけ急いでいても、口臭は気にしなくてはならない。
(女子として当然よ)
歯を磨き終わり、洗面台の鏡をみると、酷い寝癖が後頭部に爆誕していた。
(寝癖よ、今すぐ立ち去れっ!)
直したい気持ちは山々だが、直す時間などカノンが持ち合わせているわけがない。
しかし、髪ボサボサはカノンのプライドが許さないなので、バレないように魔術で髪を高めに結び、三つ編みを施す。
三つ編みが完成するまでに、ナイフやお金、地図が入ったカバンと杖を机の上からひったくる。
「行ってきます!」
部屋には誰もいないが、それでも言わなかったことはない。
時計をみると9:45分。
ギリギリセーフのラインに差し掛かっているのではないだろうか。
そんな微かな希望がカノンを油断させる。
『転移!』
走っている時間はないので、魔術でギルドの扉前まで翔ぶ。
一瞬で世界がガラリと変わり、宿の静かな雰囲気から、騒がしい大通りの中心に変わる。
とてつもない違和感を感じるが、そんな事を考えている暇はない。
カノンは最早、体当たりといっても過言ではないタックルでギルドの扉を開け、中に入ろうとするが__。
ドン!
肩と扉がぶつかった瞬間、凄まじい衝撃がカノンの体内を稲妻のように駆け巡る。
「うっ、」
痛みを堪えながら仲に入り、頭を上げながら中の様子を伺うと、そこには既に到着している2人の姿があった。
(良かった……アリスはそこまで怒っている感じはない! でも、なんであんなに戸惑ってるんだろ。 ……げっ)
アリスの横にいる、鬼神……いや、悪魔?はたまた死神だろうか。
ものすごい形相で、カノンの事を待っているであろうノエルが刺々しい殺気を放っている。
「えっと、その、あの、おばあちゃん助けてて……」
「……ぁ゙?」
「大変申し訳ございません。 寝坊しました」
言い訳でどうにかできないかと考えた、一番許してもらえそうな言い訳だったが……そんな事を考えていたカノンが馬鹿だった。
ノエルの怒りの形相から、一周回って笑顔になる瞬間をみたカノンは、命の危機を察知し 土下座した。
「てめぇ、昨日なんつった? 寝坊したことない? よかったじゃねぇか、寝坊を経験できて」
ノエルの嫌味がカノンの心をズタズタに引き裂く。
カノンは居た堪れない気持ちで一杯一杯で、言い訳したい気持ちと、これは受けなければならない罪、という気持ちが均衡して複雑な感情に浸る。
(精神的ストレスと心体的な疲労で禿げそう……)
「招集されたら15分前に到着しとけや……?」
「はい。」
(15分前て……意外とノエルって真面目なのかな)
「む?! それはすまない! 私は10分前だ!」
「俺の方が先に来てんだから知ってるわ。 間に合ってんだし、10分前はセーフだ」
「ならよかった!」
(うっ……2人の視線が痛い)
「後で何か奢らせてください」
「俺、そこの店の高級ステーキで」
「私は、ゴールデンプロテインが欲しい!」
「どっちも超高いやつぅ……」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
カノンはこの日、寝坊に対してトラウマが植え付けられた。
カノンの財布が空っぽになるまで、後もう少し……。
2/13 更新




