32 もうそろそろ
爆発のあった東の正門上空には、魔法で飛ぶカノンと、自らの翼を羽撃きながら上下に揺れているノエル、そして、その腕の中に抱えられるアリスがいた。
「おい……ノエルっ! うっ……もう少し、っ安定した、飛行は……できないのか? 酔いそうなんだが」
「うるせぇな! なんで俺なんだよ、てめぇも自力で飛べ! てか、もう酔ってんだろ!」
「無理だ……ドワーフは地でしか生きられない呪いが……うっぷ! っもう限界だ」
「んな呪いねぇよ。 ……ん?ちょっと待て。 まさか俺の腕の中で吐くとかないよな? な? おい!返事してくれ!」
カノンはどこから取り出したか、袋をサッとアリスの口元にやった。
途端、アリスは我慢の糸が切れたかのように全てを吐き出した。 ……ノエルの腕のなかで。
「てめぇ……俺の服につけたら承知しねぇからな、?」
3人の中に微妙な空気が流れる。
ゲロを吐く者、それを袋でキャッチする者、そして、そのゲロを吐いている奴を抱きかかえている者。
いつも絶対カオスになるよな、このパーティと思っていたのはノエルだけでは無いだろう。
流石にこの状況下に耐えかねたのか、ノエルが口を開いた。
「にしても、これがスタンピードか……おい、カノン」
「……なに?」
「ずっと思ってたんだが……聞いてた話より多いくねぇ……? ここまで来ると圧巻だな」
「まぁ、そういうこともあるよね」
東の正門には、禍々しいオーラを放つ魔物が湧きに湧いていた。
普段なら余裕で倒せるモンスターも、夥しい殺気を放っていて本当に倒せるのかと不安になってくる。
「ところでだな、ノエル」
全てを吐ききり、スッキリとした面持ちのアリスが告げた。
「さっきから、ずっと腕の震えがこそばゆいのだが……やめれるか?」
「え? なになになにー! ノエルくぅんは、初めてのスタンピードに、怯えてるのー? かわいいでちゅね〜!」
「ちげぇよ、怯えてるわけねぇだろ」
「じゃあ何だっていうのさ」
「武者震いだ」
「流石のノエルも、スタンピードの前には顔面蒼白だね」
「うっせ」
ノエルは、歯を見せ目を細めて笑った。
「……? どうした」
「いや? 成長したなーって思って」
「あ? 何がだ?」
最初と比べれば、ノエルは大分良い表情をするようになった。
最初は天上天下唯我独尊を貫き、この宇宙は俺様が中心だと言っているような素振りだったが、ここ最近では軽く小突くと少年のような笑い方をする。
そんな事実が、カノンにはとてつもなく嬉しかった。
「さて、じゃあどうやって戦う?」
「どうせこの量なんだ。 適当に打っても当たるだろ」
「カノンの大魔法はどうだ?! それで生き残った奴を私達で叩くぞ?」
「その戦斧でやるなら叩く前に風圧でどっかいきそうだな」
3人は揃って黙り、下のスタンピードを見下ろした。
「なんだか、いつぞやのゴブリンの村を思い出すね」
「あぁ……あの時のカノンはキモかったな」
「うむ。 同感だ」
「え、ひどすぎない? 泣いちゃうよ」
たしかに、シチュエーション的には似ている。
けれども今の3人にはあの時には無い信頼が構築されている。
カノンならその莫大な魔法で全て吹き飛ばしてくれるだろう。
アリスなら、その強靭な力で敵をなぎ倒してくれるだろう。
ノエルなら、後方から正確な援護で敵を斬ってくれるだろう。
そんな思いがこの空間を満たしていた。
「放ったりますかー。 ……そんなの危険だ、できるわけねぇって言わなくても大丈夫?」
「あー、言ったなそんな事。 __必要ねぇだろ?」
「逆に地形を変えないか心配だ。 ダンジョンの二の舞はごめんだぞ」
「あはは。 あれはアリスを思ってじゃ~ん」
「それじゃあ、始めようか」
アリスとノエル、双方が揃って頷く。
2人に多大な信頼と期待を寄せながら、カノンは魔法を放った。
「打ち放て」
途端、目の間に大きな魔法陣が展開され炎の光線がでた、かと思ったが……。
すぐさま、その周りに無数の小さな魔法陣が展開され、空が覆い尽くされた。
『オギャ? ギャギャッ?』
モンスター達は気付きもしない。
今から始まる悲劇を。
「バージョンア〜ップ♪」
『エフォート』
すべての魔法陣一つ一つから異なる魔法が一斉にモンスターへ向かって放たれた。
空間が震え、地面には罅が入り、抉れ、風は悲鳴をあげているような気がした。
その魔法は、カノンが今までの人生で覚えてきた魔法を全て同時展開した努力の集大成。
土埃が晴れる頃には大半の魔物が消滅していた。
「良い眺め」




