02 アリスとノエル
「疲れた……」
一人の部屋に声が虚しく響き、カノンは糸が切れた操り人形のように、力無くベットに倒れ込んだ。
ベットのフローラルの香りに優しくつつみ込まれる。
途端、カノンは抗いようもなき激しい眠気に襲われた。
いつもならお風呂に入って部屋着に着替えるが__そんな余力は、今のカノンに存在しなかった。
(もうこのまま寝ちゃおっかなー、……いや、ダメダメダメッ)
せめて、部屋着には着替えよう。そう思い、重い体を一気に起き上がらせる。
反動で後ろに倒れそうになるが、何とか持ちこたえた。
いくら非力なカノンでも、普段はここまで酷くない。
相当疲れが溜まっているようだった。
部屋着をとりにドアに向かう。足が鉛のように重い。
(こうなったのも全部、あの二人のせいだ__!)
カノンの脳裏につい先刻の出来事が駆け巡った。
* * *
「え……?」
今の男気溢れる言葉と、刃物を具現化したような鋭い言葉は、この2人から発せられたものだろうか。
どっちがどっちの声かは分からないが、どちらショックだ。
せめて、女の子の方が毒舌であってくれ……!もしそうなら、ギャップで推せる。
そう、カノンはいるかもわからない神に願った、が__。
「む?どうした?顔色が優れないようだぞ?医務室まで私が運ぼう」
どうやら、神はカノンに微笑んではくれなかったようだ。
「い、いや大丈夫__」
「心配御無用!」
気付いた時には腰に手が回され、体が宙に浮いていた。
いや、この少女に"軽々と"持ち上げられていた。
(この華奢な体のどこに、そんな筋肉があるんだ)
驚き半分、呆れ半分で流されそうになったが、こうしている間にも、カノンは医務室運ばれていることに気付き、慌てて名も知らぬ少女をとめる。
「ちょ、まっ……」
「おい」
カノンの声は、もう一人の地を這うような低い声にかき消された。
「いつまでこの俺様を待たす気だぁ゙? 集めたんなら早く始めろや、ノロマが。 あと、そこのチビ!」
「ノロマ__!?」
「チッ__!?」
「そいつ顔色は悪いが、別に医務室連れて行く程じゃねぇだろ」
考えて行動しろや、と金髪の少年は吐き捨てるように言う。
(この人、口は悪いけど、ちゃんと人の事見てる……。案外悪い人じゃない?)
見た目で判断してはいけないとよく聞くが、いざ対面してみると勝手な偏見を持たざるを得ない。
「む、そうなのか。 早とちりしてすまない」
「い、いえ」
誤解(?)は解けたようで、少女はまるで子猫を扱うかの様に、丁寧にカノンを降ろした。
「コホン。 では、面接を始めます。」
グダグダだった空気を入れ替えるかのように、カノンは咳をする。
今の一件で、カノンは2人は悪い人ではないと察し、密かに肩の荷を少し下ろした。
「まず、名前からお願いします」
「「アノリスエル/だ」」
(な、なんて……?)
普段、難解不読の魔術式を解読できるカノンだが……、地獄の底から聞こえるような低い声、と鈴のように可憐な高い声を、同時に聞き取ることは、不可能だったようだ。
先にどちらかを促せばよかった、と反省しながら再度問いかける。
「先に右の、女性__?からお願いします」
「……!アリスだ!よろしく頼む」
正直、ピンク髪の少女は__アリスはとても幼く見えた。
しかし、もし種族がドワーフならば120センチは平均だ。
だから失礼のないよう、万が一を考えて女性と称したのだが、正解だったようだ。
女性という言葉が聞こえた瞬間、分かりやすく反応した。
まぁ、年上に見られて喜ぶ子供、という可能性は否めないが。
「ノエル」
「は、はい……!」
(聞く前に言われてしまった。 ハッ、もしかして……遅ぇんだよ早くしろって意味だったりする?)
若干、ノエルの眼圧に怯えながらも、いつも持ち歩いているミニノートに情報を書き込んでいく。
「次に種族名をお願いします」
「……ドワーフだ」
「……天使族」
今度は2人被ることなく答えを聞くことができた。
しかし、その答えにカノンは違和感を覚える。
ドワーフならば、その身長も納得だが明らかに華奢すぎる。
優しさの象徴、天使族が眉間に皺を寄せているだなんて聞いたことがない、ましてや、低音ボイスだなんて初耳だ。
「武器は何を使用しますか?」
「こいつだ」
アリスの白く、細い指が隣の机においてある巨大な戦斧を指差す。
何やら禍々しいオーラを放っており、大きさはカノンよりも大きい。
(私、その戦斧って何処かのゴロツキが置いていって、余りの重さで持ち上げられずに、そのまま放って置かれてるやつだと思ってたんだけど)
「……」
ノエルは無言で、どこからともなく死神が使いそうな紅色がベースの大鎌を取り出す。
(もう天使じゃないじゃん。 死神じゃん。 __死神じゃん)
カノンは何が諦めのような気持ちが心を満たしていくのを感じる。
世の中には色々な人がいると改めて痛感する。
人、というよりドワーフと天使だが。
「えっと__では、最後の質問です」
「む? もう終わるのか? 早いな、助かる」
「このオレを長時間拘束するなんて万死に値する。 早く終わらせろ」
この2人は、同じパーティーになった時、ちゃんと仲良くやっていけるだろうか。
「使える魔術属性を教えてください」
「土だが……魔力が少ないのでな! 基礎しか使えない! なんなら、基礎さえ使えるか不安だ」
「光。 平均並には使える」
見た目からの先入観で好き勝手言い過ぎだとカノンは自覚しているが、違いすぎるのにも限度があるだろう。
だからカノンは正直、返っきたそれっぽい言葉に、内心ホッとする。
「なるほど。 質問は以上です。 冒険者IDを教えてください。 後日、そこ結果を送ります」
冒険者カードはIDさえ知っていれば、連絡が可能。
他にも、パーティーでのグループチャットや、ギルドからのお知らせが見れたりと、色々役立つ優れものだ。
「ぁ゙?」
「え?」
ノエルが分かりやすく不機嫌な声を出す。
何か変なことを言ってしまっただろうか。
カノンの背中に冷や汗が流れる。
「この俺をこんなに待たせておいて、結果は後日だ? 舐めてんのか?」
「べ、別にそんなわけじゃ……」
「私は不合格なのか?」
「うっ……」
アリスの儚げな上目遣いが、カノンの良心を抉る。
2人の視線が、カノンだけを、捉える。
そんなに見つめられる事がないカノンの口から、咄嗟に言葉が零れ落ちた。
「わ、分かりましたっ! ご、合格です」
(やっちまったぁ……! この2人仲良くなれるか不安だったから、ちゃんと考える予定だったのに)
「そうか! よかった!」
「まぁ、この俺が不合格なわけないがな」
じゃあ、別に明日でも良かったんじゃ__、そんな考えが思い浮かぶが、言える雰囲気ではないので黙っておく。
「さて、俺らはさっきまで質問攻めだったんだ。 晴れてメンバーになれたことだし、次はてめぇの番だ」
(暴君すぎるだろ……。 まぁ、聞かれて困ることなんて無いけどさ)
「じゃあまず、そうだな__、お前の適正魔術は何だ?」
「全部」
その場の時が止まる。
アリスも、ノエルも、身動き一つしない。
カノンだけが、別世界にいるように動いている。
「__は?」
ようやく動けるようになった、ノエルの口から間抜けな声が出る。
今日もまた、新人冒険者はギルドの扉に騙されて倒れ、どこかのパーティーはモンスターから逃げて帰ってくる。
新しいパーティーができるのもまた然り。
このパーティーがこれから、どんな物語を紡いで行くかは、まだ誰も知らない。
2/6 更新




