04.早くこの状況を常態化させねば
そろそろ話し合い(物理)に向けて、マツバが動き始めますよ!
引っ込み思案で言いたいことが言えないマツバが義父を呼び出した、というのは、存外大事に捉えられたらしい。
お手伝いさんを見送ってから一分もしないうちに現れた義父は怪我の具合や気分の悪さを念入りに、なんならちょっと鬱陶しさを感じるレベルで確認した挙句、死なないでマツバとおいおい泣き縋ってくる始末……。
今までは『余裕のあるダンディなお義父様』という義父の顔しか見たことがなかったので、あまりのキャラチェンジっぷりに思わず私がスペキャ顔になったのは言うまでもない。
こっそり部屋を覗き込む義兄たちなんて、化け物もかくやという怯え切った目で義父を見ていたのでよっぽどショックだったのだろう。わかる。かっこいい義父の実態がこんなだなんて、私も知りたくなかった……。
子どもたちのショックをよそに、義父は私に呼び出した理由を尋ねてきた。
その頃には義父も泣き止んでケロリとしていたし、父親のみっともない姿を見ているのはいたたまれなくなったのか義兄たちも退散していたので、話をするには絶好の機会と言える。
……正直、あまりにもケロッとしすぎてて『もしかして噓泣きだったのでは?』という疑惑もあるのだけど、そこをつつくと藪から蛇が出て来そうだったのでやめておくことにして。これこれこういうわけで云々かんぬん、頭の中で簡単にまとめておいた用件を伝えてみる。
「……だめ?」
「いや、いいよ。マツバがしたいならやってごらん」
ただし怪我が治ってから、俺が家にいる日にしてくれな? と微笑んで、傷に障らないよう細心の注意を払いながら頭を撫でてくれた義父は、ありがたいことに全面的に私を応援する姿勢を貫いてくれるらしい。
……マツバに甘いところのある義父なのでたぶんOKを出してくれるだろうな、とは思っていたが、こうもアッサリ許可が取れるとちょっと拍子抜けだ。
でもまあ、そこを指摘して折角手に入れた免罪符を取り上げられても困るので、いい子のマツバはよーくお礼を伝えた上で『早く治るようにちゃんと安静にしている』と約束しておく。
傷の経過報告はお手伝いさんから伝えてもらうことにして、怪我が治った暁にはぜひ義父に帰ってきてもらい、私が成し遂げるところを見ていてもらわなければ。
義父の過保護もあって、静養期間は大体二週間ほどだった。
一日の大半をベッドの中か自室で過ごし、食事の時にはお手伝いさんが部屋まで届けてくれる徹底ぶり。
部屋の中にいる限りは義兄たちも侵入してこないし、トイレやお風呂のタイミングなんてもってのほか。
たぶん、義父が義兄たちをこってり絞った時に何か言ってくれたんじゃないかな、と思うが真偽のほどはわからない。
でも、これまでは部屋にいようがトイレやお風呂に行こうがお構いなしで、マジでシャレにならない悪質な悪戯をされたこともあるくらいだったので、やっぱり義父がひとこと言ってくれてるような気がするな……とほぼ確信している。
今までは病院に駆け込むほどのことは起きなかったし、マツバ自身、義父には義兄たちの仕打ちを打ち明けられなかった。
だから当然、義父が動くこともなかったわけだけど……うん、こうしてなんらかの働きかけをしてもらった(暫定)おかげでよーくわかった。
安心して休める・生活ができる環境はとても重要で、精神衛生的にも大変よろしく、何よりも心が潤う。
早くこの状況を常態化させねばと決意を新たにして、私は義兄たちと顔を合わせないで済む静養期間をゆっくりと過ごしのだった。
静養期間が終わって自由に身動きを取れるようになってから、義父が帰ってくるまでは更に一週間の猶予があった。
その間、義兄たちが大人しくしている――というか、前回の件で懲りてくれたなら私も考えを改めようかな? なんて考えていたけれど、そんな甘さはどうやら必要ないらしい。
そりゃあ、義父にこっぴどく叱られたあとなので階段上から突き落とすレベルのことはしてこないけれど、小突いてきたり足を引っかけて転ばせるレベルのことは早々にやりはじめた。
食事についてもちょっと……いやかなり横取りされてしまうのだが、そこはお手伝いさんがしっかり目を光らせており、あとからこっそり横取りされた分を差し入れてくれるのでひもじい思いはしていない。
ホイップクリームとフルーツがたっぷりのサンドイッチや、色とりどりの野菜がぎっしり詰まったキッシュなど、日によって差し入れはまちまち。
でも、お手伝いさんの作るものはどれも美味しいから文句なんてないし、むしろ今日の差し入れは何かな? なんて楽しみにしているくらいで、いつかお手伝いさんに料理を教わるのもいいなーと思っていたりする。
前世の私、一人暮らしで自炊はしていたけど、こんなオシャレな料理はできなかった(ような気がする)からなぁ……。
とにかく――こうしてお手伝いさんが差し入れしてくれるので、食事に関しては義兄たちの好きにさせてやるか、と鷹揚に構えていられるのだと思う。
もしお手伝いさんの秘密のフォローさえなければ私は義兄たちを断固として許さなかったし、義父の帰りを待たずして作戦を決行していたに違いない。
(日本人の食べ物の恨みは恐ろしいんやで)
……なんて、彼らに言ってもしょうもないことを胸の中でひとりごちながら、義兄たちの日に日にひどくなっていく義妹いじめを耐えつつ、ささくれだった心はお手伝いさんのおいしい料理に癒されつつ、私は義父が帰宅する日を指折り数えて待ちわびていたのだった。
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