05.報復の時は来た
報復の時は来た。
――そう、待ち焦がれた義父の帰宅である。
私との約束のために職場から家に戻って来てくれた義父はまず、珍しく短いスパンで帰宅してきたことを訝しむ義兄たちに『部下にたまには休めと言われた』『娘が大怪我をしたんだから帰るべきだと秘書に言われた』などなど方便を並べ連ね、彼らの警戒を解いた。
そのあとで、義父の帰宅に興味をなくして義兄たちがいなくなったタイミングを見計らい、こっそり『いつでもいいよ』と私にゴーサインを出してくれたのである。
それもばっちりウィンクを決めながら。
(この人、自分の顔がいいこと絶対わかってやってるよなァ……)
だからといって、姪っ子相手にまで自分の顔の良さを使おうとしなくても良いと思うが。
乙女ゲームの攻略対象の父親だけあって義父ももちろん顔はいいし、ダンディなところも大人の魅力があって大変すばらしいとは思うのだが、いかんせんマツバ的には義理だろうがなんだろうがこの人は父親なので。
いくら顔がよかろうと身内相手にドキドキすることなんてないし、なんならカッコつけられてもちょっといたたまれないというか、気まずいというかなんというか……。
義父の顔についてはさておき、約束を守る気でいてくれたのは心底ありがたいと思う。
だって義父からすれば義兄たちは実の息子で、対する私は死に際の妹から押し付けられた子ども(らしい)。
にもかかわらず、本当だったら捨て置かれてもおかしくないところを(仕事の関係で放任気味とはいえ)きちんと育ててもらっているだけでも十分すぎるくらいなのに、姪っ子が『義兄たちにいじめられているので仕返ししたいです』『あわよくばボコボコにしてやりたいです』って言い出しても『いいよ』って返事してくれるなんて、もうこれだけでかなり珍しい事例だろう。
普通ならもっと穏便にとか、自分がよく言い聞かせるから待ってほしいとか、そういう方向に行きそうなのに。
むしろ義父の様子はなんだかウキウキと、どことなく実の息子たちが姪っ子に叩きのめされるのを楽しみにしている素振りさえ見えるものだから、……うん。
ありがたいと思いつつも、私が若干引いてしまったのは悪くないと信じたい。
とりあえず、今か今かと楽しみにしている義父には『仕返しのタイミングを見計らっているから』と言って落ち着かせ、私は準備のために一度部屋に戻ることにした。
……義父のことは嫌いじゃないし、むしろ好きだ。
物心ついた頃には既に実の両親を喪っており、いじわるな義兄たちに嫌がらせをされる日々で、自分のことを大切にしてくれる義父はいつだってマツバにとってのヒーローだったのだから。
前世のことを思い出すまでのマツバにとって、唯一絶対の存在だったと言っても過言じゃない。
今はそこまで盲目的ではないけれど、それでも、私のことをきちんと育てようとしてくれて、向き合ってくれる義父のことを嫌いになれるはずもなく。
今まで大切にしてもらったぶんの恩返しを、いつか、どこかのタイミングで必ずできたらな。なんて、言葉にすることはないけれど、前世を思い出す前も思い出してからも、そう思っていることに変わりはない。
ただ――そうは言っても、だ。
普段いじめてくる義兄たちに徹底的に仕返しがしたい、と相談した時もそうだったけど、義父があまりにも私に協力的過ぎて、ちょっと怖い。
何か企んでいることがあるのかなと、前世を思い出してちょっぴり擦れたマツバとしては、全肯定bot並みに応援してくれる義父に対して懐疑的にならざるを得ないというか……。
そこまでしてくれるんならなんで今まで放置してたのって、どうして今まで助けてくれなかったのって、私の中に残ってる子どもとしてのマツバの部分? それとも単なるインナーチャイルド? が納得できずに、ずっとめそめそして泣いている。
知らなかったことに対してアプローチしろって言うのもどだい無理な話だし……と大人として言い聞かせて、一応自分を納得させてはいる。
でも、お手伝いさんからちょっとくらい子どもたちの話を聞いてるはずじゃないのかとか、だから私が怪我をした日も仕事を放り出して家に帰ってきたんじゃないのかとか、私自身モヤモヤしたものがあるので、正直言い聞かせの効果はあまりないかなというのが正直なところ。
もうお手伝いさん以外信じられないし信じたくない、なんて。
ふとした時にそう思ってしまうくらい、義兄のことも義父のことも、マツバは信じられなくなってきている。
(まあ、今まで目を逸らしていたものが、今回の件で表面化しただけの気もするけど……)
だがしかし、それはそれとして、『好きにしたらいい』という言質をきっちり取れたからには好きにやらせてもらおうと思う。
これからの身の振り方を考えるのは安心安全な暮らしを手に入れたあとでもできる、と前にも言った気がするけれど、要はそういうこと。
義父のこと、義兄のこと、私自身のこれからのこと。
どれもこれも、ゆっくり落ち着いて物思いにふけることもできないような状況で考えたって、ろくな結果にならないことは自明の理というもの。
まずは義兄たちに対する今までの鬱憤を晴らして、ちょっとでも留飲を下げて、面倒臭いことを考えるのはそのあとだ。
「――よし、やるか」
ぺちりと自分のまろい頬を軽く叩いて、女は度胸と気合いを入れる。
最初のターゲットは下の兄――ハイド・オトギリだ。
執筆の調子がいいので、今日も夕方~夜あたりにもう一話更新できそうです!お楽しみに!
もし、ちょっとでも「面白かった!」「続きが楽しみ!」と思ってもらえたら、ブックマークやポイント評価(☆→★)、いいね等で応援していただけるととても嬉しいです。すごく励みになります!
なるべく定期更新を続けられるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします…!




