28.俺たちと一緒にいて
「……本当に、」
「うん?」
「本当に、言ってないんだよな?」
「こんなことで嘘ついてどーするわけ」
「でも、俺たちのこと、嫌い?」
「そりゃそーでしょうよ。むしろ自分たちが私に好かれるようなことしてきたと思ってる?」
「「ウッ」」
「……し、てない、デス」
「嫌なこと、ばっかしてた、……と思う」
「……マ、それがわかるようになっただけ進歩なんじゃないの」
いや本当に、と患部の範囲に合わせて小さく切ってしまった湿布の余りをどうしようか考えながら、心の中で呟いた。
今日一日――というか、正確にはここ数時間の話だけど、やっていいこと・悪いことの分別をつけようとする努力を既にしていることもそうだし、世間一般的な優しさや気遣いを見せる努力をしていることも、今までの双子からは考えられない進歩である。
願わくばそれがこれからも、少なくとも私が自立して双子から離れるまでは続いて欲しいなぁと思う。
私がいなくなった後であれば、あとはもう双子の好きにしてくれて一向に構わないので、後生だから私の身に害が及ぶことだけはやめて欲しい。
マツバ・オトギリはゲームの作中においてヒロインにとってのキーキャラクター、という特殊な立ち位置ではあるけれど、私はあくまでも凡人スペックしか持ち合わせのない一般人Aみたいなもの。
人並みにささやかな幸せを噛みしめる一生を過ごして、天寿をまっとうできたら十分なので、ナチュラルボーンクズ兄弟におかれましてはそこへ水を差さないでもらえればと……わりと切実に思うわけでして……。
「俺たちといるの、嫌?」
「絶対イヤ」
「「っ――」」
「……なんて言うほど嫌だったら、とっくに出てってるよ」
「!?」
「ホント?」
「今の距離感くらいで、今までみたいなことしないなら、同じ家で暮らすことくらい気にしない」
その代わり、今までみたいに嫌がらせや暴力を振るい始めたり、四六時中べったりされるようなことがあれば考え直すけど。と、心の中で付け加える。
前世を思い出して精神的に大人に寄ったおかげで、多少感情を誤魔化すとか、見ないふりをする能力が培われているとはいえ、私の中の双子への嫌悪感がまったくなくなったわけじゃないのだ。
そんな心理状態のところへ四六時中べったりされてみろ、私は早々にストレス値が限界突破して家出を強行する自信しかない。
義父さんの過保護っぷりからしてすぐに連れ戻されることにはなるんだろうけど、何度も何度も、無駄とわかっていても家出を繰り返すことになるぞ私は……!
淡々と言葉を返す私がそんなことを考えているとはつゆ知らず、安心したようにホッと胸を撫で下ろす双子の様子に思わず微妙な表情を浮かべてしまう。
……なんかこの双子、異様なまでに私に懐いてきてない?
これ、絶対私の気のせいなんかじゃないよね?
最初はそういうポーズかな、と思っていたけど、あまりにもあからさますぎて段々疑えなくなってきたというか、本当に懐かれているんじゃ……という気持ちになってくる。
身の安全を確保できる、という意味では確かにいいことだけど、心情的にはかなり複雑だ。
本当に何がどうしてこうなってるんですかね、私、マジで双子を布団叩きでぶちのめした記憶くらいしかないんですけどね……?
「本当に嫌じゃない?」
「現状維持されるなら」
「ずっと一緒?」
「は……? いや、普通に考えて『ずっと』は無理でしょ」
双子の言う『ずっと』がいつまでかは知らないけど、『大人になってからも』という意味なら無理だし、それこそ絶対イヤに決まってる。
成人して働き出したら一人暮らししたいし、スオウとハイド、どっちが義父さんの仕事の跡を継いで実家に残るのかは知らないけど、どちらが残るにしても結婚したらお嫁さんの方が義妹との同居を嫌がるだろう。
どう考えても義妹と兄嫁の同居とかトラブルの素にしかならないだろうし、そもそも私が赤の他人と一緒に暮らすなんて到底無理な人間なので、一人暮らしできる年齢かつ継続的な収入を得られるようになれば、その時はさっさと実家を出て行くつもりである。
(それに……)
いくら義父さんが金持ちで、私とは伯父と姪という関係にあるとはいえ、いつまでも姪の面倒を見てもらうのはたいへん申し訳ない。
義父さんはその辺、あまり気にしないのかもしれないが、むしろ私の方が気になってしまうのだ。
姪だからと言って引き取らなくても良かったところを引き取ってくれて、安定した衣食住を与えてくれている。
それは本当にありがたいことで、ありがたいと思うからこそ、余計な迷惑をかけている負い目のようなものが私の中に燻っている。
その気持ちとおさらばするためにも、自立して一人暮らしを始める、というのは私の譲れない目標のようなものだった。
「じゃあ、十年」
「?」
「十年は俺たちと一緒にいて」
「……まあ、それくらいなら?」
なんで十年? と思ったが、十年後の私は十六歳で、双子は十七歳。
私はともかく双子がカレッジ卒業を間近に控え、忙しくなると同時に、進路選択をする頃合いだ。
スオウとハイドがどういった選択をするかはまだわからないけど、どんな選択をしても、社会に出る双子と学生の私では一緒に過ごす時間が圧倒的に少なくなるのは確かだろう。
ポンと出てきたわりには非常に現実的な数字だ、と思う。
もうそんな具体的な未来まで見据えているのだなぁと、早熟な双子に心の中で感心しながら、十年くらいなら一緒にいてもいいと頷く。
たったそれだけで『無理だ』と答えた時から浮かぶ苦しそうな表情が一転、心から嬉しそうに、年相応のあどけない笑顔を浮かべるのだから、なんだかなぁ……と私は本日何度目かのため息をつくのだった。
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