22.嬉しかったのか
「「……」」
「何にやにやしてんの」
「別にィ?」
「俺たちの妹はかわいーなァって思ってただけ〜」
「きも……」
義父さんの背中を見送ったあと、ふと視線を感じて振り向けば、何やらにやにやと笑っている双子と目が合った。
そんな顔をされる心当たりが私にはまったくないので、どうかしたのかとストレートに尋ねてみたんだけど……まさかの回答にゾゾゾッと鳥肌が立った。
いやあの、本当、何?
急に双子から『可愛い』とか言われるなんて、正直に言って恐怖でしかないんだけど。
いやいやいやホントむり、気持ち悪い、頭のてっぺんからつま先までの肌という肌がめちゃくちゃ粟立ってるもん私……!
そんなわけで自分の身体を抱きしめるようにして両腕をさすり、心底ドン引きしてます、と大袈裟なまでに双子にアピールをする。
けれどもどうしたことか、双子はちっとも気にする素振りを見せず、相変わらずにやにやとご機嫌な笑みを浮かべたまま。
(……おっかしいなぁ、どうしてこう、双子と私って噛み合わないんだろう)
義父さんの奇行の件で、ちょっとくらいなんとかなるんじゃないかな? なるかもしれないな? って思ったりもしたけど、きっとアレは一時の気の迷いだったんだろう。
うん、そうに違いない。
「兄ちゃんが守ってやるからな……!」
「は?」
「あ、ハイドずりぃ!」
ソファを降りたハイドがトトトッと歩いて近づいてきたかと思えば、ひしり、と私の首に腕を回して抱き着いてくる。
まさか抱き着かれるとは夢にも思わず、低い声を出した私はピシリと音を立ててその場で硬直。
しかもその上、抱き着かれただけでも意味がわからないのに……『守る』?
(『守る』って何? どゆこと??)
脈絡のない発言をされた現状はもちろん、『守る』発言をされた理由もわからないし、抱き着かれたことなんてマジで意味がわからない。
頭上にいくつものクエスチョンマークが浮かび上がって困惑を極めていれば、「じゃあ俺も~」なんて言ってスオウが悪ノリしてくる始末。
「ぐえっ」
「はは、きったねー声」
「兄ちゃんたぶんそれ駄目なやつじゃない?」
「え、マジ?」
そんなこんなで完成した、右側からはハイドに、左からはスオウに抱き着かれるという謎過ぎる状況。
意味不明を突き詰めているし、左右から首に腕が絡みついているせいで首は締まってカエルが潰れたような声が出るし、もう散々である。
かろうじてスオウの発言をハイドが止めている点と、それに対してスオウが素直に反省して「ごめんなー?」と私に謝ってくる点に関してのみ、今までよりマシになったかな……と思えるような気がする。
本当、ちょっとだけ。
(なんだこれ……)
いやもうマジでなんだこれ、と双子から私への激し過ぎる対応の変化具合に頭がついて行かない。
息が苦しいから離れろ、と伝えても完全に離れることはなかったけど、それでもちゃんと気道が確保される程度に腕を緩める気遣いが今の双子にはあるらしい。
こんなにすぐに実行できるようになるんなら、どうして今までそれができなかったんだろう? という疑問はあるが、……そこはアレか。
今まで双子に指摘する相手がいなかったから、双子もそこまで気にしていなかっただけ(気遣いの必要に気付いていなかっただけ)というのが正解な気がする。
この双子、地頭はそんなに悪くないから、一度指摘されればまあまあちゃんと気遣いできるようになるんだな……新しい発見だ……。
「はーなーれーろー!」
「「やだ」」
「なんで!!」
がっちり抱き着いて離れない双子の腕から抜け出そうとジタバタもがくものの、やっぱりニ対一だと太刀打ちができず、双子サンドから逃げることができない。
ままならない現状にムキー! と抗議の声を上げる私を見て双子は楽しそうにしていて、『こういうところはお前ら変わらないよな!!』と私は内心キレ気味である。
……まあ、今までみたいに私に怪我をさせて笑っているより、ずいぶん平和的でマシになったなァと思うけどさ。
あくまでも今までに比べたらマシってだけで、根本的な解決にはなってない気がするんだよね。
今までの双子があまりにも問題児すぎたから、ちょっとマシになっただけで『双子が成長したぞ! これくらいのことなら許してやろう!』って気持ちに傾きかけてしまうが、そこは気を引き締めて厳しい対応を続けていく所存。
私が生きていく上で問題なくなる程度には超絶問題児の双子を躾けないといけないので、甘い顔は基本的にしないつもりである。
というかぶっちゃけ、双子に甘い顔とか今の私には絶対無理。
塵も積もれば山となるわけで、双子に甘い顔をするための好感度はもはや地についているどころかマイナスに振り切っている以上、当然の対応というものである。
「……お前たち、何をしているんだ?」
三人で団子のようになっているところへ、電話を終えた義父さんが戻ってくる。
私たちを見る目は明らかに戸惑っているというか、どうしてこうなったのかを心底疑問に思っている感じ。
今この瞬間、私と義父さんの思いが通じ合った――って、なんかこんな感じの下りをちょっと前にもやった気がするな。
やった結果のコレだし、二の舞、三の舞にならないうちにやめておくか……。
「双子サンドー」
「カワイー妹を可愛がってるー」
「――ああ、なるほどね。マツバが自分たちの真似をしてくれて嬉しかったのか」
(えー……? そういう……?)
むぎゅむぎゅと双子に挟まれて喋れない私の代わりに、双子が義父さんの疑問に答える。
すると義父さんはすぐに状況を理解したようで、私にも大変わかりやすく、優しくひも解くように説明をしてくれた。
おかげさまで私もようやく、この状況になった理由を理解したわけだけど、……うーん。
まさか私がそういう風に取れる物言いを義父さんに向けてしたことが、こうして双子にまで作用するのは完全に予想外。
『なるほどこれは自業自得なのかも』と一瞬考えて、納得しかけて、『いやでもだからってこの距離感バグはどうなの?』とすぐに我に返った。
いくらなんでも双子のパーソナルスペースが狭すぎると思うんですが、あの、七歳くらいの男の子の距離感ってこんなもんだっけ……??
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