64 異名
「『スペシャルズ』! 放てーっ!」
僕が空間を斬り裂いて転移するのと同時に、固定砲台みたいな機関銃を具現化して標的へ攻撃を仕掛ける。やつがギルガメッシュくんをさらった誘拐犯か!
弾丸がそこに立っていた男に間近に迫ると――
「おもしれー!! 『ヘレシー・フラッシュ』!!」
「!?」
弾丸がすべて消え去り、さらに僕の体が止まってしまう。体中を鎖で縛られたかのように、全く動かすことができない。
「『ディレクターズ・カット』!!」
そのまま男が僕に殴りかかるのを、クェドが防いでくれる。一秒ほど経つと体は楽になり、動かすことができるようになった。
一瞬で元の位置に戻った男は心底愉快そうに笑い声をあげた。
「いいぞいいぞっ! パーティーだ、祭りだな!! さあ五人でかかってこい!!」
……五人?
後ろを向くと、既に三人の人がいた。しろと、しろを応援していた観客席の二人だ!
前方から風を切る音が聞こえ、僕は頬に鋭い痛みを覚える。同時に視界の端へ赤い血が映った。……今の一瞬で何らかの魔法を行使したらしい、僕にも全く感づかれずに。
「『ガード』。全員に防御を付与する!」
「助かります! 裁きを受けろ誘拐犯めぇええええええ!」
黒髪の少年が魔法を使う――どうやらバフ系らしい――と同時に一瞬で天使のような少女が百を超える氷の矢を生成し、飛ばす。その生成スピードは僕の頬を斬り裂いた男にも負けず劣らずだった。
しろがどういう立ち位置なのかはよく分からないが、いちおう敵の敵であることは間違いないらしいので便乗させてもらうとする。
「はははっ!」
飛び上がった男は、空中で舞を舞うように腕と足で氷の矢を叩き潰していく。僕も『スペシャルズ』で具現化した毒入りの短剣を飛ばすと、それは男には対応できなかったようで、大きくカーブを描いて確実にお床へと迫り……
また、短剣が消えてしまった。さらに再び僕は体が動かなくなる。
「……。なるほど……カウンターの魔法ねぇ」
どうやら男の持つ『ヘレシー・フラッシュ』とやらは攻撃を受けると自動で発動する魔法のようだ。攻撃を無効化し、さらに攻撃者の体の自由を一定時間奪う。
だいぶ、強力だ。どうにかそれの欠点を見つける必要がある。
「あいつが弟くんをさらったんスかね? それにしては姿が見えないッスけど……」
「たぶんね、魔道具かなにかを持ってるみたいだから、ギルガメッシュくんはそれに閉じ込められているのかもしれない。それか……もうどこかに送った後か」
後者でないことを祈るだけだ。とりあえず、今は目の前の誘拐犯をぼこぼこにする。
しろが月をいくつも出現させて攻撃を仕掛けているところに僕も飛び込み、瞬時に創り出した鋼の刀で斬りかかる。
「珍しい剣だなそれ、両刃じゃ無いのか!! よく斬れそうだな!!」
「刀って、言うんだよっ!」
斬撃の軌道を男はすばやく予見し、ひらりと躱そうとするも僕が魔法で刀のリーチを伸ばし、無理矢理切りつける。ズバッ、と男の左の二の腕に食い込み、鮮血が舞った。
「ははは! ここまでの負傷をしたのはいつぶりか! いや、いい剣を持っている!!」
しかし男は自分の筋肉の力で刀をがっちりと掴み、離さない。
僕が剣を捨てて退くのと同時に後ろから黒髪の少年が突っ込んできて殴りかかる。どうやら、彼は武器を持っていないようだが。
「今はミラが封印魔法のチャージをしてるから! とりあえず十分! 十分持ちこたえればいいからね! わかった、そこの二人!?」
「りょ!」
「了解ッス!」
どうやら天使の少女はミラという名前らしい。確かに、ミラは男を睨みつつその両手に途轍もない魔力をためている。かなり精密な封印魔法……この腕前があれば討伐の褒章を用いて一国を作ることもできそうなほどだ。
「『ディレクターズ・カット』! めちゃめちゃにするッスよ!」
「ふははは! 面白い魔法だな!!」
クェドは『ディレクターズ・カット』を乱発することにより戦況を遅延させ、十分を稼ぐつもりらしい。実際、少年と男は同じ場所を瞬間的に行ったり来たりするばかりでどちらも攻撃を仕掛けられてすらいない。
ただ、男はすぐに適応したのに対し、少年は若干混乱している模様ではあるが。
僕が回復と強化の魔法を少年にかけつつ戦況を見守っていると、数十秒後、すぐに戦況は大きく動いた。
「うわぁ!」
この『ディレクターズ・カット』乱れ撃ちの中でも行動するコツをもう掴んでしまった男が少年をぶっ飛ばしたのだ。それもうまく、チャージをしているミラの方向へ狙って!
「ゴッドハンドぉおおおおお!」
サッカーのゴールキーパー的な動きで飛んでくる少年の軌道上へ飛び込み、衝撃を受け止めつつ斜めに方向を変える。
ミラは動けないようで、苦々しい表情で魔法を構築している。吹っ飛んだ少年が壁に衝突し、その壁は某映画の岩盤のような状態になってしまう。
「『マイ・アメイジング・ワールド』」
しろが生成した月を投げつけ、一瞬で未来の編集を行おうとする。が……
「……!?」
「お、アイツからもらっていたおまもりが役に立ったな!! 魔法は防がれたぞ!!」
魔法に失敗し驚くしろをよそに、一直線にミラの妨害へ突っ込む男を僕が止める。
「僕だっているんだからね! 『スペシャルズ』、網、……布、縄!」
男が網に引っかかってつんのめった。だが、すぐに僕の方を向いて不敵な笑いを浮かべる。
「――編んで作るもの、だな!!」
「!」
ぐぬぬ、『スペシャルズ』が見破られた!
だが網が創り出した一瞬の隙を突いて、復帰した少年が男に飛び蹴りを仕掛けた。あの衝撃を受けてなお、無傷……彼はたぶん純粋な人間だろうから、少年の魔法『ガード』は、文字通りの絶対防御か!
「あと少しだから! おとなしくしてろぉーっ!」
「力比べか!! ここまでの筋力の人間も久しぶりだな!! 今日はラッキーデーらしい!」
僕にとっては厄日でしかないんだけどね……。
体内時計曰く、あと三分持ちこたえれば十分になる。僕は今一度少年へ強化魔法をかけて、また吹っ飛ばされた時に備えておくのだった。




