60 ザ・ニュー猫耳
「決勝戦ッスね! がんばって!」
「もう……? 早くない?」
待合室でクェドが簡単に説明してくれる。
「早いっていうか、トーナメント式だから参加者は多くてもそこまで試合数はないんスよ。まあ、いろいろあるッスからこの後も、時間の都合もあるッスけど」
どうやら、この剣技大会が終わった後は別の試合、たとえば有名な剣士のドリームマッチ的なものとかがあるようだ。今年もたくさんの人が来るらしい。
「次の人は……『しろ』?」
次の対戦相手はこの世界では珍しいひらがなの名前だ。偽名だろうか。
「しろもねえ、新規参加者なんスよ。上位が新規参加者ばっかりだからちょっと古参勢として悔しいッスね」
この話題になるのを予測していたようで、クェドはしろとやらに関する調査書を取り出した。クェドのお手製らしい。
白髪と黄色い瞳の美少女だ。黒いジャケットを着ている。そして……頭には猫耳があった。
「猫耳だ!」
「いろんな意味でのキャットファイトッスね。なかなか面白そうッス」
『決勝戦はっ! アップヒル対しろ!』
スタジアムで僕とやや距離を置いて向かい合うのは、先ほど調査書で見た白髪の猫耳美少女である。かなり高身長で、だいたい百七十とか百八十とかはあるだろう。
そして相まみえて分かったことがひとつある。
「……」
相手は、相当強い。無言でただ突っ立っているだけでもかなりのオーラを感じる。
頑張らなくちゃね。
「頑張れええええええ! しろちゃん!! ファイト!!」
「頑張ってくださああああああああい!!」
観客席からひときわ大きな声でしろに声援が届く。しろはくるりと後ろを向いて声の主である少年と少女を見ると、だるそうに目を半分閉じた。知り合いなのだろう。
試合開始のカウントダウンが三、二、一と小さくなり――ブザーが大きく響いた!
「『エクスプロージョン』!」
爆発を連続で起こして攻撃するも、しろは無表情を崩さない。
「『マイ・アメイジング・ワールド』」
発動された魔法の効果で天井がグリッチのように歪み、夜のように暗くなる。そしてそこにぼんやりと浮かび上がってきたのは……丸くて大きな白い月だった。
しろが宙を睨みつつ手をぶんぶんと振る。何かを操作しているのかとも思ったが、何も見えない。
なら、すぐに仕掛ける!
「『エクスプロージョン・ラグナ――」
「――『編集確定』」
「あぁあっ!?」
体が真っ二つになるような熱い痛みを感じ、視界が真っ赤な血で埋め尽くされる。
……いや、これは。本当に真っ二つにされているようだ。こんなグロいシーンを大会で出して大丈夫なのかと思わなくもないが、観客は普通に歓声を上げている。
グロさに耐性があるのか、それともただのゲームだと割り切れているのか。いずれにしてもすごい精神力だとは思う。
しかし、今は何をされた? そしてあれほどのダメージを受けたのになぜまだ生きている?
「『アクアシールド』!」
水で壁を作りつつ回復を行う。やけに回復がしづらいが、無理矢理魔力をつぎ込んだ回復魔法で体をひっ付けた。
しろは追撃はしてこず、何かを思い出したらしく宙を眺めていた。
「……ああ。忘れてた」
やはり何かを忘れていたようだ。でもこの空いている隙を逃す手はない。
「『タイドルキャノン』!」
「……」
僕が勢いよく放った高圧の水攻撃をかざした右手でやすやすと受け止められる。
そんなことは当然予測済みなので、そこに立っているのは魔法で創り出したただの残像。僕はその背後から『エクスプロージョン』の威力を利用し、加速しながら殴りかかる!
「……」
くるりとこちらを向いてだるそうな視線を向けてくるしろ。相当なめられているようだ。
「油断してるとっ!」
一瞬で爆発を十発発動し、さらに風のドリルもどきを腕に纏わせる。腕に大きな負担がかかるが、おかまいなしだ。
「――命取りだよ!!」
「!」
展開された結界を余裕でぶち破り、しろの頬に大きな一撃を入れた……はずだったが、しろは驚くべき反応速度でぎりぎり身をかわす。
「『アクアスピア』!」
予備プランとして地面に仕掛けておいた水の槍が何本も出現する。
「くっ……」
左腕を貫いた青い水の槍がすぐに赤黒く変色し、僕のコントロール外であるしろの血が落ちて地面を染め上げる。
そこでできた隙を突いてさらに蹴りを腹へ叩きこみ、肋骨を粉砕する。が……
「つかまえた……」
「っ!」
両腕で僕の右足ががっちり捕まえられてしまった。しろは容赦なく独楽のように回転した後、壁に向かって勢いよく僕をぶん投げる。
ほぼ脊髄反射のような感じで魔法を行使し衝撃を緩和、そのうえで一瞬で距離をもとに戻す。
「『スペシャルズ』、花火、ダイナマイト、TNT!」
僕が殴りかかるついでに水平方向に花火を数発放っておく。
花火をはるかに追い抜くスピードでしろへと接近し、胸ぐらをつかんで一気に叩き落す!
「甘い。『マイ・アメイジング・ワールド』」
「!?」
ふわりと空間が歪み、小さな月が空中に姿を現す。
「もう逃げられない。『編集確定』」
「しゃらああああああ!」
全力で本能に従い、白い月を殴って破壊する。かなり硬かったが、爆発も使いながら全力で殴れば月は木っ端みじんに砕けた。
苦々しそうな表情を浮かべるしろ。やはり、月を破壊すれば魔法は中断されるようだ。どのようなメカニズムでダメージを喰らったのかは皆目見当もつかないが……。
付近で爆発した花火によって僕としろは同時に多少のダメージを受けるが、僕は攻撃の手を緩めない。
「『エクスプロージョン』!」
「『マイ・アメイジング・ワールド』っ!」
爆発を発生させたものの瞬時に回避されてしまう。
テレポート先の地点に先ほど生成した爆薬を投げつけて追撃を試みたが、それも防がれた。
「……」
爆薬により出た土埃が晴れると、そこには当然しろが立っている。立っている、のだが……明らかに雰囲気が変わっていた。
「本気を出す。お疲れ様」
ぶわり、と僕の全身を寒気が襲う。しろの周囲に金色のオーラが出現し――
「『白い月』」
次の瞬間、僕の目に入ったのは、突如出現して振るわれた黄金の大剣だった。




