50 アーマルコライト
「どうも魔力が濃いわね」
洞窟の外から差し込む光が完全に途切れ、光源は僕の魔法ライトだけになったところでイエローがぽつりとつぶやいた。
言われてみれば、そうだ。それなりの魔力を内蔵するものがこういった洞窟内にあれば魔力が外に逃げずにたまることもあるのだが、それだろうか。それにしては濃すぎる気もするが。
「調査隊が来た時もこうだったのかな?」
首をかしげるイエロー。
「記事にそんなことも書いてあったような……なかったような」
覚えていないらしい。いくら物知りイエローでもやっぱり人間ではある。……別にイエローを人外扱いしていたわけでもないけど。
「おねえ、のどかわいたよ。ほしにくとおちゃちょーだい」
「干し肉とお茶ね。はいどうぞ」
干し肉食べれば余計喉が渇くと思うけど、どうなんだろう。僕が真鍮製の水筒と干し肉を渡すと、ギルガメッシュくんはごくごくと飲んでから干し肉をおいしそうにもぐもぐとかじった。僕も噛み切るのが大変だった肉をらくらく食べるのは、鳥だから嘴が強いとかそんな感じかな。
そらちゃんにも水筒とアイスクリームを渡す。そらちゃんは干し肉よりアイスの方が好きらしい。
そうして十分も歩いていると、すぐ行き止まりにぶつかった。タブレット端末を見ていたシアンが言う。
「うーん……? 最奥部まではまだ距離がある?」
見せてもらった画面には、確かに目的地であるリグマ洞窟の最奥部には少し距離があった。
試しにそらちゃんがタブレットを持って壁に張り付いてみるが、それでもだめらしい。
「なら、やっぱり奥に空間があるってことよね」
「アップヒル、崩落しないように砕ける?」
シアンの提案通りやはり砕くしかないのか……と思ったところ、壁に若干違和感を感じる。
よく観察してみると、どうやら洞窟の壁は行き止まりの部分だけゲームのように一枚のテクスチャを縦横に並べたような感じになっていた。ほかの所は問題ないのだが。
「……よし、砕くか」
魔力を右腕に纏わせて、軽く力を込めて壁をぶん殴る。壁にクモの巣状に一瞬でひびが入り――ばらばらと崩落し、奥に空間が現れた。
最奥部は青い水晶のような鉱物で四面を覆われ、それがキラキラと輝いている幻想的な空間だった。
そして、そのど真ん中に男が立っている。
「敵だね?」
「そうだ……」
この空間に良く似合った青色の髪を短く切り、両側頭部に白金製の髪飾りをつけている。顔立ちが整っていて、目は鋭く、迫力があった。服装はレザージャケットと膝のあたりが破れたジーンズ。
紺色の片手剣を一本杖のようにして佇んでいる。
「オパールのおともだち?」
「同僚なだけだ……友達などという生ぬるい関係ではない……」
らしい。ということはこの目つきが鋭いクールな兄ちゃんもザステルスなのだろう。
なんでまた、わざわざこんなところに潜んでいたのかは知らないが。
僕が魔王剣を構えるのと同時に、シアンとイエローが思い出したように後ろに下がる。そらちゃんは一応短剣を取り出して男を睨んだ。
「アーマルコライト・マクキング……行くぞ」
「アップヒル準備おっけー!」
力任せに僕が斬りかかると、アーマルコライトは瞬時に紺の剣を振りかざして受け流す。僕がその勢いを殺さずに飛び蹴りを叩き込もうとすると、相手はすぐに躱す。
「その剣、私のレベル二と同等か……ならばこちらは、レベル五で行くとしよう……」
刹那、アーマルコライトの剣から不可視のオーラと威圧が放たれる。シアンがイエローにしがみつきながら「へぅ」と変な声を出した。
これは……魔王剣より強い! とんでもないものを持ってるな……。
そして次の瞬間にはアーマルコライトが僕の目の前にいて、剣で防御しようとするが途轍もない勢いで吹き飛ばされてしまった。
「針、鉄塊、焼き鏝ッ!」
「ぐっ!?」
壁に僕が衝突するの当時に、僕の胸に太い鉄の針が突き刺さる。直後に頭にものすごい衝撃を感じて叩き落されるが――次は焼き鏝か!
風を起こして横によけると、地面に設置してあった真っ赤な焼き鏝に純白の鉄塊が衝突し、床に小さなクレーターができた。
「また、強い魔法だね……三つのものを具現化させる魔法かな?」
胸に刺さった針はご丁寧に返しもついていたが、力任せに引き抜いてアーマルコライトの方へ投げつける。痛くないのかって? 痛いよそりゃ。
「少し条件は付くがな……」
「そりゃそうか」
無制限に何でも生成できる魔法などチートにもほどがある。……コピーも相当チートだっていうのは気にしてはいけない。
「しかし……なかなかいい剣を持っている……レベル五と打ち合ってもひび一つ入らないとは……」
魔王剣ってやっぱりすごいね。誰がつくったのだろうか。もしかしたら魔王本人だったりして……。
僕とアーマルコライトが睨みあっていると、最奥部の入口あたりにいるそらちゃんがシアンをつついた。
「まほう、しらべる」
「あ! そうだ、ごめん! えーと……どれどれ……」
魔法を調べられるということで危険に感じたのか、アーマルコライトがくるりと向きを変えてシアンへ飛びかかる。
「『エクスプロージョン』!」
爆発で一瞬のけ反らせ、その隙に『スラッシュ・リボンズ』で顔をリボン化させてアーマルコライトの前に滑り込む。イエローが微妙な顔をしているのがちらりと見えた。
「矢、投げ槍、弾丸!」
僕の背後に三種類の武器が生成される。まずい、と思った時、シアンが声を上げた。
「――遠距離武器であること!」
祝・五十話達成!!
やったね。ここまで読んでくれた皆さんにも、ありがとうございます。




