103回 羨ましいからってつるし上げるのはいかがなものかと
「それで、挙式はいつにするのかのお」
3日ほど休んでいたミオが復帰して来た日に、トシノリがそう尋ねてきた。
仕事が終わってからだったので、全員が揃ってる。
そんな野郎共に周りを囲まれたタカヒロは、如何にしてこの場を切り抜けるかを考えていった。
「手を出したんだから、言い逃れは出来ないから」
フトシがトシノリに続いて言葉を発してくる。
それはあらゆる弁明を退けるという気迫がこもったものだった。
より砕いていうと、「お前の言う事聞かねーから」となる。
この場合、タカヒロがミオとの事を誤魔化すような言動全てを無視するという事になる。
「とりあえず、手を出した事はどうでもいい。
もの凄く羨ましいが、話の本筋ではない。
大事なのはこれからどうするかだ」
「そうっすね。
すんげー羨ましいっすけど、そいつはどうでもいいです。
あの娘をこれからどうするのかが大事っす」
「まさか捨てるなんて事は無いだろうけど。
いつまでもこのままってわけにもいかねえだろ」
「というわけでだ。
この先どうするかをはっきりさせておいた方がいいと思ってのお。
ようするに、いつ頃に嫁にするつもりなのかと」
周りの連中も、そうだそうだと声を上げる。
「あんな可愛い娘を……」
「大将だからって……」
「畜生、畜生……」
「これで捨てるなんて言うなら……」
迂闊な事を言おうものならば、即座に斬りかかってきそうな気迫が上がっている。
「まあ、こういうのは本人の気持ちと都合もあるでのお」
トシノリが一応は理解を示す見解を提示する。
「だから、頭と嬢ちゃんの都合をすり合わせないといかん」
結局は、その都合を強引にでもつけてしまえ、という事でしかない。
結論は決まっていて、そこに至る道筋をどうするかという事になる。
そこにタカヒロの意志など入り込む余地は、ほんの少ししかなかった。
「それでお前らは俺をどうしたいんだ」
「もちろん、挙式するところをだ」
「大将を嵌め込む絶好の機会っすからね」
「こんな面白いお祭り、滅多にねーわな」
仲間にとってタカヒロとは、そういうものであるようだった。
「だが、本人のその気がなければどうにもならん」
「実際、嬢ちゃんの事はどう思ってるんだ?」
「それを聞くか……」
一番肝心な部分である。
そこを直撃で聞かれてきた。
「実際どうなんだ?
文句があるとは思えんが」
「あるわけないだろ」
むしろ、思った以上によくやってくれている。
傍にいてくれて助かってはいた。
「自分で飯とか用意しなくていいのはありがたい」
「それだけか?」
「もっと他に、こう色々あるだろ」
「まあ、それはな……」
気遣いというのではないだろうが、一緒にいて楽しいというのもある。
面白おかしくというのではない、居てくれて安心するという感覚だ。
適度な距離をおいてくれるし、変にうるさい事も言わない。
それでいて、上手い具合にかまってくれる。
そんなミオをどう思ってるかと言うならば、
「居てくれると嬉しいかな」
となる。
それを聞いて他の者達は、心底うんざりした顔をした。
「まあ、こうなるわな」
「妥当な結果だのお」
「吐き気っていうか、胸焼けがするっすね」
「すんげー鬱陶しい」
さんざんな言われようだった。




