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藤林家の勇者さま!  作者: 矢鳴 一弓
第一章 BAD END? いいえ、Welcome to New World
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第3話 居候勇者の事情

 遡る事三ヵ月前、俺が彼女に助けられ、世界地図をもって現実を突き付けられる所から始まる。


「な……んだっ……て?」


 俺は自身に置かれた事態に驚愕していた。

 まさか、異世界に転移してしまうなんて思ってもみなかった事だから、何れは仲間達が俺を探しに来てくれて、セント・エメテに帰れるんだという希望的観測の下、この状況を深く考えていなかったからだ。

 まぁ、結果としてひもじく野垂れ死にそうになっていたが、あんまりだ! あまりにも理不尽すぎる!

 しかし落ち着け俺。今やっと状況を把握出来たのだから、何か他に出来る事があるはずだ。そうだ! もっとこの世界の事を良く知るべきだ! と、俺は深く深呼吸して気持ちを整える。

 あかりは世界地図を指さし俺を見やる。

 恐らく俺が何処の国に住んでいたのか訊いているのだろう。確かに、恰好や言葉が違う事から、俺が海外の人間だと思ったのだろう。

 俺は首を横に振ってその問に答えた。

 非常に困ったと悩む彼女には申し訳ないが、事実、俺はこの世界の人間では無いのだ。


 さて、ここで話をぶった切るのだが、俺は一つ、彼女に対して思い違いしていた。その事実を知るのは少し先の話なのだが、あえて結論をこの場で言っておこう。

 実はちゃんと伝わっていなかった!


 話を戻し――

 あかりはこれ以上考えても仕方がないと言わんばかりに、持ち出してきた物を片付け始める。その後俺を指さして鼻をつまむ仕草を見せる。

 咄嗟に自分の身体を嗅いでみる。確かに臭い。

 俺は彼女に背中を押され、とある一室へと案内された。

 そこは浴室で、どうやら身体を洗えという事らしい。脱いだ服はここに入れろと、籠を手渡される。

 俺は頷き、彼女が浴室から出た後、軽鎧を外し服を脱ぎ始める。暫くしてさっぱりした俺は、風呂に入っている間に用意してもらった服を着て、居間へと戻っていた。

 しかし、この世界の風呂は驚いた。捻ったレバーの上下で水かお湯が出せるなんて。そもそも魔法も使わずどうやってお湯を沸かしているのだろうか? 流石異世界、文明が違い過ぎる。

 などと感心する俺は得にする事が無い為、居間に備えられたソファーに座り、彼女が戻ってくるのを待っていた。

 どうやらあかりは、俺が風呂に入ってる間に、また何かを探しに奥へと行ったらしい。時折、書物等が落ちる音が奥から響く。

 暫くすると、また何かしらの書物を抱える彼女の姿が現れた。その一冊を開き、俺に読み聞かせる。

 この世界の、しいては日本の言語を学ぶ本のようだ。

 だが、今見せてもらっている本や、他の書物の表紙がやけに子供向けの絵で彩られているのは何故だろうか?

 俺は読み聞かせてもらった言葉をなぞり、同じ様に発音してみた。

 たどたどしかったが、彼女は笑顔で頷き丸のサインを出す。褒められて、俺はちょっと嬉しくなった。

 次に彼女は自身を指さす。


「わたし、あかり。あなた、お名前は?」


 これは、教えてくれた言葉を組み合わせて俺に質問しているのだなと理解した。


「ワタシ……ライト。アナタ、アカリ」 


 上手く言えたのか、彼女は満面の笑みを浮かべて身を乗り出し、俺の頭を撫でる。いきなりの事にびっくりしたが、まぁ悪くない。恥ずかしいけど。それに、先程まで自分の事でいっぱいだったが、事態を把握できた事もあり、少し余裕が出来た俺は、目の前の彼女に意識を向けた。

 彼女は俺と年代は同じだろうか。年頃の女性の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。目鼻立ちも良く、可愛らしい部類の顔だろう。なんかドキドキしてきた。そしてちょっと視線を下に下げた先には――


 突然、玄関の開く音と共に、「ただいまー」と声が響く。


 はっ!? と我に返った俺はすぐさま立ち上がり身構える。そして目の前のあかりはと言うと……、だらだらと脂汗を浮かべ、それは見事に慌てふためいていた。

 一般の人間が、特に親御さんがこの状況を見れば、知らない男を家に上がらせ、二人っきりでナニやってるんだ!? と、解釈してお怒りが飛ぶだろう。いや、お友達の体で家に上がらせていると言えば良いのだろうが、今の彼女の様子から見て、そんな考えを巡らす余裕が無い事が優に分かった。

 アドバイスをしようにも、その時の俺もどうして良いのか分からず、現状を見守る事しか出来なかったのだが、突然彼女が足を滑らせ、盛大にこけそうになったものだから、俺は咄嗟に手を伸ばし――


「あかりー? 居る……の?」


 助け支える筈が、何故か押し倒す形になり、その様を、今後お世話になる藤林家の肝っ玉母ちゃん、藤林明日美に目撃される形となった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 何故か俺は正座をさせられていた。

 隣では同じく正座をして、目の前の女性、明日美さんに身振り手振りを使って事の事情を説明するあかりの姿があった。

 俺は拾われた子犬の様に、二人の様子を伺う。

 嗚呼、きっと彼ら(捨て犬、または猫)は、飼うか飼わないかで家族会議する親子の様を見て、今後の命運を委ねなければいけない不安でいっぱいになるんだろうな。と、そんな心境を考える。いや、何考えてるんだ俺。

 そして明日美さんはというと、静かに聞き耳を立て、何度か頷きをした後、彼女に質問を返してまた聞き耳を立てるを繰り返していた。そして話が進むに連れ、次第に彼女の瞳が潤いだす。

 一体どんな事情を話しているのだろうか? 俺は二人の様子に不安を抱いた。言葉が分からないのは辛い。後で彼女にどういう話をしたのか訊く必要がある。

 明日美さんはとうとう涙を流し、うんうんと頷く。どうやら話が付いたようだ。

 あかりは俺にVサインを向け、俺は苦笑いを浮かべた。


 こうして、藤林家に居候する事になり、今に至る訳だが、一月程して、ある程度言葉を覚えた俺は、改めてあかりに詳しい事情を説明した。


「え? 記憶喪失じゃ……無いの?」


 とんでもない答えが返ってきた。

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