第4話 宛名は勇者? 謎の宅配便
どうやら俺は、記憶喪失の外国人と思われていたらしい。
いや、お互いに言葉が通じない状況で、正確な事情を説明出来なかった弊害だと、後々思い返せば納得できる。が、あかりが明日美さんに説明したのは、それを更に脚色させた内容だったようだ。
要約するとこうだ。
俺は記憶喪失になり、自分の名前以外覚えておらず町を彷徨い、住む場所も無い為、独り河原で段ボール生活を余儀なくされていた。
ゴミを漁って食料を探したり、果ては道端の草を食べたり、川の水を飲んで喉を潤したり……そんな過酷な状況で生きていたのだ……と、それは聞くも涙、語るも涙な内容なのだが、うん、何処からツッコんでやろうか。
ともあれ、そんな彼女のお陰で此処に住まわせてもらっているのだから、今更明日美さんに、本当の事を伝えて変に混乱させる訳にもいかず、記憶喪失の体で生活せざるを得なくなった。
「でも、正直私は、最初に貴方を見た時、コスプレをした変人って思ってたかな?」
「コス……プレ?」
「仮装って言えば分かるかな? えっと、村人が貴族の恰好を真似たりとか」
「あー、盗賊や密偵が町人とかに成りすましたりするアレか」
何か意味合いが違うような? と、あかりが苦笑いをするのも気にせず、俺は目の前の書物に集中していた。
朝食を終えた後俺は、彼女の案内で様々な情報等が閲覧できる施設、〝図書館〟へと来ていた。
この世界についての情報、延いては元の世界に戻る手掛かりを探す為である。
因みに、現在俺が活動の拠点としているこの地域は、地球の数ある国の一つである日本、その首都・東京にある墨田区という地域だそうだ。って、細かいな。
この国の気候は温暖湿潤気候とされ、国政は立憲君主制(※厳密には色々複雑な政治体系の為、便宜上これで)を執る。主な政治の流れとしては――
「って、コレはどうでも良いわっ!」
俺は手に持った本を勢いよく机に叩き付けた。
「ちょっと、静かにしてよ。ほら、職員が見てるよ?」
ひそひそと、あかりが俺に耳打ち指さす。如何にも厳しそうな、眼鏡をしたお姉さんが俺を睨む。俺は苦笑いを浮かべ、頭を下げた。
流石に今の内容は俺にとって不必要だ。段々話の内容が明後日の方向へ行きそうになったので、ついカッとなってしまったようだ。
俺は反省し、短く跳ねた黒髪を掻きながら別の本に手を伸ばす。
そうして時間は過ぎ、ある程度情報が集まった所で、俺達は家へと帰った。
「あー、疲れたー」
俺はソファーにだらしなく腰掛け、帰りがけに寄ったコンビニで買ったコーヒーを飲む。あかりも向かいのソファーに座り、同様に購入したお菓子を開け、口に運ぶ。
「で、何か分かった?」
「一応この世界については分かったつもり。後、どうやら元の世界には戻れそうにないって事が分かった」
因みに、得られた情報をおさらいすると以下の通りだ。
日本での大まかな歴史や文化、風習。また、この世界では異世界や魔法等の概念は存在するが、実在しないとされている。
それらを題材にした作品等があるが、あくまでもフィクション、空想の産物だとされている。
中には科学では解明できない事を、それらに紐付けた書籍等があるが、確証性は無く、所詮娯楽の類でしかないようだ。
しかし、本当にこの世界にはマナが無い。初めてこの世界に来た時もそうだが、何も感じないのだ。
因みにマナとは、所謂世界の力その物と言えば良いのだろうか。色々語弊を招く言い方ではあるが、分かり易く言えばそうなる。それを体内に集め、力に変える=魔力に換える。後は体内に巡らせて肉体を強化するなり、術式を組んで魔法を放つなり、また道具にマナを注いで生活の道具として使う等、その用途は多岐にわたる。
「ホント、不便だよな」
「そんなにマナって便利な力なんだ」
彼女の疑問に俺は頷き、「あーあ、せめて魔力を回復する道具でも無いかなー」と、ぼやく。
「そんな都合の良い物があるわけ――」
と、あかりが言い終わる前に、ピンポーンと、チャイムの音が遮った。
「ん? 何だ? 誰か来たようだが」
「みたいだね。ちょっと行ってくる」
あかりは玄関へと向かい、俺はそれを見送った後、もう一口コーヒーを口に運んだ。暫くして、彼女が居間に戻ってきた。
彼女の手には大きな荷物が抱えられていた。
「何だ、宅配か。しかし何が届いたんだ?」
「分からない。むしろライトが知ってるんじゃないの?」
え? どう言う事だ? まるで質問の意図が分からない。
俺は差し出された荷物を見て更に混乱した。
荷物の宛名には、ライト・クローバーと記された伝票が。更におかしな事に、差出人の欄には住所どころか名前すら記されていなかった。
「えっと、ライト? 何か頼んだ?」
「頼む訳無いだろ? そもそも宅配なんて一度も利用した事ないぞ?」
じゃあ、これは何? と、彼女は荷物を指さし、俺は恐る恐るその荷物を開けた。
荷物の中には、コンビニやスーパーとかで売っているような固形食品が、ビッシリと入っていた。
「何だこれ?」
「カ○リーメ○○?」
種類も豊富で、フルーツ味やチョコ味、チーズ味等様々だ。俺はその一つを手に取り、封を開けて中身を取り出した。
見た目や匂いはまさにアレだった。
「どう見ても、カ○○ー○イトだな」
「うん。カ□リーメイ卜ね」(←※良く見ると二つ字が違います)
おい、伏字! 隠す気無いだろ! と、それは置いといて、俺は袋から取り出したそれを、思い切って口の中に放り込んだ。
「え!? 食べちゃうの!?」
俺は目をつぶり、もしゃもしゃと口を動かした後、ゴクリと飲み込む。そして感想はというと……
「うん……そのまんま!」
俺は親指を立てて笑顔で答えた。
その時、体の内側から、何かが疼くのを感じた。それは全身を巡り、細胞の一つ一つが反応する。体が熱い。何かが込み上げてくる。
俺はこの感覚を知っている!
「ちょっと!? どうしたのライト!?」
俺は湧き上がる衝動に駆られ外に出る。
そして、俺は全身に力を込めて――
「やったぁああああああああああ!」
全力で跳んだ。そりゃあもう空高く。跳んで、近くのビルの屋上に着地し、また別のビルへと飛び跳ねた。
そう、俺の体には魔力が漲っていた。全身を最大にまで強化して、この喜びを全身で体現した。
ありがとう! そしてありがとう!
三十分後、俺は清々しい笑顔で家へと戻った。
あかりの反応はというと、驚きを通り越して呆れた表情をしていた。
「いやぁ、まさかこれが魔力を回復する食品だったとは。日本の食文化は恐るべしだな!」
「いや、それはない」
あかりが冷静にツッコむ。
「似てるけど、パッケージのデザインが違うよ? それに、これを送ってきた人って、たぶん貴方の関係者からじゃないの?」
言われてみればそうだ。よくよく見れば確かにパッケージが違う。印字には、マナメイトと書かれていた。
しかし、俺に関係した何者かが、このような道具を送ってきたと考えると、何故差出元の欄が空欄なのか疑問に思う。だが、考えた所で思い当たる事が無いので、差出人の件に関しては保留する事にした。
因みに、食べてみて分かった事だが、どうやらこの食品、マナを凝縮して固形加工された物のようだ。
そういえば、元の世界にも同じように、マナを凝縮して液体にした薬品があった事を思い出す。恐らくそれと同じ方法で生成されたのだろう。
などと俺は考えを巡らせていると……
「本当にそのまんまの味ねー」
あかりが、マナメイトの一つを手に取り、食べていた。
「でも、こういうのってフルーツ味が一番美味しいのよね」
「え、おま……ちょっ、何やってんだ?」
俺はわなわなと震えながら彼女に問う。
「えーっと、その……私も食べてみたら魔力が使えるようになるかなーって……。食べちゃダメだっ……た――」
あはは、と、誤魔化すように笑いながら答えるあかり。しかし、言い終わる寸前、まるで糸が切れた人形の様に倒れた。
「おい!? あかりっ!?」
急に倒れた彼女を抱き起こす俺は、すぐさま容態を確認する。
顔色が悪く、額に手を当ててみると、それは酷い熱を持っていた。




