プロローグ 平穏な日常
梅の花が芽吹いて暫くの頃、俺は公園のベンチでだらしなく空を見上げていた。
僅かに肌寒さを感じつつも、確かな暖かさで照らす陽光が心地よく感じる。
まさに季節は春。
いつものように日課である鍛錬の後の休憩を、いつものように選んだ缶コーヒーで労う一時を、俺は満喫していた。
公園と隣接している、フェンスで囲われた広場では、少年達がバスケットボールに興じている。
それを横目で眺めつつ、「平和だな……」とこぼした後、あの出来事を思い返していた。
そう、魔族との死闘。
最初は殺人現場へたまたま足を踏み入れた事が発端だった。その犯人が魔族と知り、俺は追い掛けたが、あかりも巻き込まれた事により、事態はさらに大事に。
途中、魔王との邂逅を経て、使い魔ゴローからの助力。偶然にもガルオゥムが地球へ来た事に加え、彼によってあかりを守ってくれた事もあり、事件はなんとか解決する事が出来た。
その後は特に何事も無く、妙な出来事も起きず、平穏な日常に戻った訳だが……。
「何故だろう……俺の目の前は真っ暗だ……」
不意に思い出した事が一つあった。
それは、事件の影の功労者である、ある人物の存在である。
見てくれは十~十二歳くらいの少女。
そう、目の前のアスレチックでわきゃわきゃと騒ぎ立てる子供達みたいな……。
――ん? 子供?
ふと、俺はそのアスレチックへと視線を向けると――
件の存在がそこに居た。
色白の肌に二つ束ねたサイドテールの紫紺の髪。眼鏡の奥には紅色の瞳が覗く。
目鼻立ちは幼い容姿よりも僅かに大人びた印象を見せ、まさに美少女と言っても過言ではないだろう。
その少女が、アスレチックの一番高い所へとよじ登り、
「太陽の輝きを受けよ! サンアターック!」
日曜の早朝に放送される、特撮番組の必殺技を叫ぶ。
おい、何やってるこいつは?
そして、一緒に遊んでいた子供達は、各々呻き声を上げながら倒れる。
ノリ良いなお前ら!
彼女の必殺技(?)による反応にご満悦な笑みを浮かべ、勝利とこれまた特撮番組に出る主人公の決めポーズを掲げる。
正直俺はこいつと知り合いだと思うと、恥ずかしくてたまらない。
早々に立ち去ろう。と、俺はベンチから立ち上がった。
「おや? そこに居るのはライトではないか! おーい!」
気付かれた。
俺は脱兎の如く逃げる態勢に移る。その瞬間――
「やれ!」
彼女の号令により、一緒に遊んでいた子供達が駆け寄り、俺の足にしがみ付いた。
「なっ!?」
足を取られ、前のめりに倒れる俺を、子供達は「やったー」とハイタッチ。
そんな俺を、捕まえるように命令を下した少女が、ニタリと口端を吊り上げ覗き込む。
「我を前に逃げるとは、愚かじゃな」
得意気に語る少女、――基、魔王は俺の背に乗り語る。
「今日は何して遊ぶ?」
俺に逃げ場は無かった。
ほんと、何が好んでこんな目に合うんだろうかと、悲しくなってきた。
それは、梅の花が芽吹いて暫くした頃の、午前中の出来事である。




