第11話 戸惑い
第11話 戸惑い
気付けば、私は街を一望できる展望台にきていた。
なにやってんだろ? 私……。
ベンチに腰掛け、陽が落ちてきて、灯りがともり出してきた街を見る。
夜景が綺麗。足をプラプラさせてると、携帯にメールが着た。
私は、横山くんだと思って、急いで携帯を取り出す。
相手は、宮元くんだった。
私は、がっくりと肩を落とす。
結局、私が一人で舞い上がってただけで、横山くんはそれほど私のこと好きじゃなかったのかもしれない。
ただ単に、同世代の彼女が欲しかっただけで、身近にいた私ですませただけかもしれない。
そう思うと、涙が溢れてくる。
宮元くんからのメールは、今、何してるの? というたわいもない内容だった。
私は、暇と一文字だけ打って送信する。
ベンチから立ち上がり、寮に戻ろうかと歩き出すと、宮元くんが飛んでくるのが見えた。
いけない。泣き顔を見られちゃう。
私は、ブレザーの袖で、涙を拭う。
「紗季ちゃん、おひさ! 最近、なかなか会ってくれないんだもん。嫌われたかと思ったよ」
私は、顔を背ける。
「ちょ、ちょっと補習になってね。魔法の制御の仕方ならってるんだ」
宮元くんが、私の顔を覗こうとしてくる。私がクルリと回ると、
宮元くんが、私の手を掴んだ。
「紗季ちゃん、泣いてんのか? どうした? 何があった?」
「な、何でもないの。何でも……」
ダメ。抑えることができない。私は、顔を手で覆って、泣き出してしまう。
辛い気持ちが、押し寄せてくる。私は立っていられずに、座りこんでしまった。
「あいつだな? あいつが、何かしたんだな」
私は顔を上げて、宮元くんを見た。
宮元くんは、怒りの表情を見せ、高まったサイコエネルギーが、
漏れ出してパチパチと音を立てている。
「違うの。何でもないのよ。本当に」
「何でもないことないだろ?
あいつは俺に、紗季ちゃんを守ると大見得切ったんだ。それが何だ?
悲しませるようなことしやがって!」
私は、宮元くんの手を掴んだ。
「わかった。話すわ。聞いてくれる?」
宮元くんは、コクりと頷いてくれた。
私たちは、ベンチに座り、私はさっき起こったこと、
私が思っていることを正直に話した。
「はあ? 何だよそれ? 自分の彼女を賞品にするなんて、
信じられねえ馬鹿だ。なあ、マジで別れた方がいいよ。
魔神だなんだってやったとしても、あいつ自身は変わらねえよ。
俺なら、君にそんな思いさせない。
俺なら、君を幸せにしてやれる。君の気持ちをわかってあげられる。
全世界を敵に回したとしても、俺なら力でねじ伏せられる。
俺は、漣高校を卒業と同時に、ネオ教会の支部長の椅子が約束されてる。
エリートコースさ。絶対、不自由はさせないよ。
それにさ、ベル=ロッコさんは、すごいんだ。
あの人についていけば、世界は変えられるよ。
紗季ちゃんのこと話したら、是非連れておいでって言うんだ。
今度一緒に、会いに行こうよ!」
「もう彼女じゃないよ。今日、もう付き合えないって言われたから。
ねえ、教えて。男の子ってさ、好きでもない女の子に、
好きって言ったりできるものなの?」
「ああ。そういう奴もいるよ。
女の子のこと、自分の飾りか何かだと思ってるような奴がさ。
でも、俺は違うよ」
「ホントに?」
「ホントだよ。俺は、紗季ちゃんのこと本気だもん」
「私が、どんな女でも?」
「ははは。俺にはわかるよ。紗季ちゃんは、いい人だよ」
私が、ネオ教会の人を何人も殺したといったら、宮元くんは何と言うだろう。
ベル=ロッコを襲った犯人だと言ったら、なんというだろうか。
「ね? ネオ教会の人たちが何人も殺されたでしょ?
それから、ベル=ロッコさんがこの前、襲われて怪我したよね?」
「うん。魔法院の人たちも殺されているよね?
なんか、過激派だって聞いたけど」
言ってしまおう。頭の中がぐちゃぐちゃで、もう何もかも嫌だ。
楽になりたい。
きっと、宮元くんなら、私を消してくれる。一瞬の内に。
私は、顔を上げ、笑顔を作り、宮元くんを見る。
宮元くんは、何? と言って、首を傾げる。
「あのね、それやったの私なんだ。宮元くんの手で裁いて欲しいの。
お願い」
一瞬で、宮元くんの目が鋭くなる。
やっと楽になれる。横山くんが私を必要としてないなら、
生きている意味はない。
さよなら、横山くん。初めて好きになった人。
宮元くんが、あははと笑う。なんで?
「冗談きついなあ。殺された人たちは、ネオ教会の腕利きばかりだよ?
そんな人たちに気付かれず、一刺しで、絶命させてるんだ。
紗季ちゃんがそんなことできるわけないだろ?
もし、紗季ちゃんがやったにしても、部屋が破壊されてるはずだ」
あれ? 信じてないの? 私は少し語気を強めて、説明する。
「私、忍びなのよ。だから、背後を取るとかわけないの。
そして、これを使ってやったの」
私が辺獄を見せると、宮元くんは手に取って、眺める。
「これ、魔装具だろ? 忍者の武器じゃないじゃん」
「だって、これでやったんだもん! ほんとよ!」
「はいはい。わかったって」
「信じてよ! ホントなんだから!」
宮元くんは、やれやれといった顔で、耳に小指を入れる。
ちょっとー。真面目に聞いてよ。
「紗季ちゃんみたいに、いつも魔力を溢れさせてても、
ネオ教会の人間はわからないって言いたいの?
そんなわけないじゃん」
「え? 私、魔力を溢れさせてるの?」
「うん。気付いてないの? 100M先からでもわかるよ」
いつの間に? そんな馬鹿な。
私は、少し前まで魔法も使えなかったというのに。
どうして? どういうことなの?
「はい。じゃあ、この話はこれで御終い。
ねえ、ご飯食べに行こうよ。俺、おごるからさ」
「うん……」
私は宮元くんとご飯を食べ、その後カラオケに行って、
夜遅くまで遊んだ。
でも、気持ちは沈んだままで、すっきりとはしなかった。




