3-6 止めなければならない、でも止められない
七つの場所から、火花がこぼれおちている。辺りを煌々と照らしていた。
それが照らし出すのは四つの影。
みゆき、イレイネ、唯、そしてキヨモリだ。キヨモリは三本を両腕と頭で、それ以外の歩達は一本ずつ垂らしている。
風が、火花を散らした。
初春の夜はまだまだ肌寒さを感じさせたが、胃の中でゆたんぽのように熱を発散する雑多な具材達と季節違いの花火のおかげか、余り苦にならない。
ぼつん、と火のしずくが消え落ちた。
これが最後の花火だ。
「終わっちゃったね」
「そうだねー」
祭りの後、といった感じだ。花火は今ので最後になる。カバン一杯に詰め込まれていた花火も、ペースを考えず使えばそう時間はかからず消費してしまう。
もう寝るか、と歩が言おうとした時、唯が声高に叫んだ。
「そうだ! 私、買ってくるよ! キヨモリでひとっ飛びだし! あの駄菓子屋ならまだ空いてるよね?」
確かにいつも世話になっている駄菓子屋なら、二十四時間だし、花火も置いてあるだろう。
だがしかし、もう夜中で、人通りもほとんどないだろう。
そこに唯とキヨモリを行かせるのは流石にどうかと思う。実感は余りないが、自分達は幼竜殺しに狙われているのだ。
それがわかっているのはみゆきも同じようで、口を開いた。
「もう時間遅いからやめなよ。行くなら私とイレイネが行くから」
みゆきの弁が正しい。確かに歩が行くのもダメだし、まだみゆき達がいった方がいいだろう。そもそもここで終わりにすればいいのだが、唯が物足りなく思っていることに、ここで終わり、とまでは言いづらいのかもしれない。
唯はおちゃらけて言った。
「大丈夫だよ。私とキヨモリは竜殺しなんかに負けないって。歩とアーサーには負けちゃったけど、それまで一度だって負けたことなかったんだから! それに、出るとも限らないし」
さすがに止めようと、歩は口を開こうとした。
しかし、止めた。唯の瞳が少し潤んでいたからだ。
「それにさ、楽しいんだ。本当に。ここで終わりにしたくないんだ」
それは、唯の心からの言葉であるのは明白だった。態度もあるが、なにより重みがある。
歩はのどから声が出なくなった。それを止めるものを、歩は持ち合わせていないのだ。
みゆきが言った。
「それは私も同じだよ。だけど、私が行けばいい話だから」
「私、何もしてないじゃん。料理の時も何もしてないし、運んだのはキヨモリだし。ただ楽しんでただけで、このままじゃお客さんみたいになっちゃう。私も何かしたいんだ」
みゆきも黙った。
おそらく、歩と内心は同じ。止めなければいけないのはわかる。無謀な行動だとも理解している。
それでも、今の唯を止めることはできなかった。
それがわかったのか、唯は言った。
「じゃあ、行ってくるよ! キヨモリ! 行くよ!」
ざっとキヨモリに飛び乗ると、そのまま空に飛び上がった。影はすぐに遠くなっていく。
「唯!気をつけて!」
歩の声が聞こえたかはわからない。
ただ、唯の顔は笑っているように見えた。
「行っちゃったね。良かったのかな」
「……さあな」
「……ですね」
風が冷たく感じた。そう時間もたっていないはずなのに、危機感ばかりが増大する。
唐突にみゆきは言った。
「唯とキヨモリと昼食食べさせたりしてごめんね。アーサー、苦手なのに」
「いや、あいつが決めたからな」
あいつに関して俺は何も知らない、とは言わない。
「でもさ、やっぱあのまま放置できなかったんだ。孤高ならまだしも、孤独は辛いよ。前者はまだプライドで立っていられるかもしれないけど、後者はいつか必ず心が折れる。私もそうだったから」
みゆきの話はどんどん飛び出している。おそらく、不安でいてもたってもいられないんだろう。唯を今から追ったところで、追いつけるはずもないし、二次被害が出ないとも限らないため、自分達にできることは何もない。
歩もまた語る。不安なのは歩も同じなのだ。
「やってみて、唯が楽しそうだったからいいんじゃないか? 今日も本当に楽しそうだったし。だから止められなかったんだけどな」
「……今日の唯は、本当に楽しそうだね。一回家に帰る時も、最初は学校に止まらなくちゃいけないって話に怒ってたけど、途中から逆に嬉しそうになってたんだ。多分、修学旅行に行ってるような気分になったんだね」
それで、宿直室で最初に会った時、少し浮足立って見えたのか。
「私も同じ感覚もあったし、唯が楽しんでいるのもわかったから、買い出しに行ったりしたんだけど、やっぱりやり過ぎだったかな」
「……お前のせいじゃないよ」
みゆきは本当にこういうところがある。全てを背負おうとしてしまうところが。
日頃はいい面ばかりが見えるが、こうなると自責の念で潰れるんじゃないかと心配になってしまう。
ここで、不意に雨竜の声が聞こえてきた。
「平とキヨモリはどうした?」
声の方に振りむく。その顔は心なしか青い。
正直に話した。
「どうして止めなかったんだ!?」
「すみません」
謝るしかできない。今となれば、なんとしても止めればよかったと思う。後悔先にたたずとはまさにこのことか。
雨竜に怒鳴られるかと思ったが、それ以上続かなかった。
「とりあえず、私は追い掛ける。お前らは中に入っててくれ」
「すみません、俺らが止めなきゃいけなかったのに」
「いや、悪いのは私だ」
雨竜は走っていった。その速さは、おそらく歩でも勝てない。
残された歩達は、ただただ待った。
どうか、凶報だけは届きませんように、と祈りながら。




