表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DDS ~竜殺しとパートナー~  作者: MK
一章 幼竜殺し
15/33

3-3 不可解は続く




「大丈夫? 傷だらけだけど」

「まあ、大丈夫。慣れてるし」

「たるんでおるのだこいつは。唯も罵倒してやれ」

「何もしてないお前が言うな」


 いつもの軽口だが、余りキレが良くない。

 アーサーの悪口も歩のつっこみも、どこか散漫。

 唯の心配そうな顔も、傷だらけな歩への気遣い以外にも向いているのは明らかだ。


 放課後になって、歩達は昼休みの教室に集められた。

 午後の模擬戦はいつも通りに過ごした。歩はアーサーに煽られつつパートナー達の攻撃を必死にかいくぐり、隙を見つけては棍棒による一撃を狙う。みゆきとイレイネは、主にイレイネが矢面に立ちつつ、要所を狙いみゆきも参戦する。唯とキヨモリは、別室で自習。

 戦績が完膚なきまでの全敗だったこと以外は、なんら変わらない日常だった。


 その場で軽く手当てを受けた後、教室に戻りホームルームを終えると、藤花が声をかけてきた。

 内容は昼休みの時と同じ。空き教室に集まっておいてくれ、とのこと。ただ、少し遅れるとのことで、適当に時間をつぶしておいてくれ、と言われた。

 仕方なく、適当に歓談している。


「歩、今日は特に注意散漫だったね」


 みゆきが言った。


「ふん、大方、放課後のことに気を取られていたのであろう。先のことに気を取られ、目の前のことをおろそかにするなど、何たる愚行。我は悲しいわ」

「まあ仕方ないよね。私もキヨモリと何したか覚えてないし」


 アーサーの罵倒も唯のフォローも、どこかおざなりに聞こえた。

 大小はあるにしろ、皆これからのことを考えているのだ。


 三十分ほどして、藤花と雨竜が現れた。

 藤花は申し訳なさそうにしている一方、雨竜は何故かいらだっていた。


「ごめんね、遅れて」

「いえ」


 昼休みと同様に、藤花が教卓、雨竜はドアの前に立った。

 すぐに藤花がしゃべりだした。


「まず始めに、大変勝手なお願いになることを謝っておきます」

「前置きはいいから、本題を頼む」


 こちらも苛立った様子のアーサーに急かされてか、藤花が一呼吸置いた後、言った。


「それでは単刀直入に。今晩から、学校で寝泊まりをしてください。今から二手に分かれて家に戻り、当面の生活道具を準備してすぐに学校の宿直室に。そこで、男女それぞれで一部屋ずつに分かれて夜を過ごしてもらいます。食事は学校側が準備しますし、宿直室にはシャワーが備え付けてあります。服に関しては、後で私が回収し、クリーニングに出します。それ以外に何か不都合な点がありましたら、言ってください。できるだけのことはします」


 ある程度は予想ができていた。護衛するなら、対象を一カ所に集めた方がいいに決まっているからだ。各自の家に配置するというのも考えられるが、護衛役に教師と生徒を選ぶ位だ。そんな手間をかけるとは思えなかった。

 だが、もやっとした不満は残る。


「護衛は生徒と教師。場所は学校の宿直室。本当に守る気あるんですかね」

「私も知りたい位です」


 藤花の口調は申し訳なさ半分、呆れ半分といった感じだ。藤花自身、じくじたる思いをしているのは同じなのだろう。

 雨竜が割り込むように言った。


「とりあえず、これからすぐに家に行こう。平と能美には中村先生が、水城には私が付いていく。身の回りのものを持ち出して、宿直室に集合で。陽が沈む前に済ませたい」


 誰も反論はしなかった。

 ただ、心の中にある種のもやを誰もが抱えていた。




 宿直室は、教室のある棟の隣にそびえ立つ棟の一階にある。パートナーが休む大きめの棟の反対側に位置し、正式な入口はそちら側にあった。

 歩は、適当に身の回りのものの回収を済ませ、母親である類に伝言を残してから再度学校に戻ってきた。幸か不幸か、類は今日から長期出張であり、出てくるのに面倒なことはおこらなかった。連絡先もわからないため伝言を残すことしかできなかった位だ。


「ここだ」


 雨竜に先導されて連れて行かれた先は、一階の端。宿直室と書かれたプレートがかけられている部屋が三つある。


「一番端が私と水城、真ん中が平と能美の部屋だ。パートナーもそれぞれの部屋で頼む」


 ドアを開けて中に入ると、部屋の中央にちゃぶ台があった。床は畳を敷き詰めてあり、入口の土間で靴を脱ぐようになっているようだ。

パートナーが泊まることも考えてか、それなりの広さがある。キヨモリでも、なんとか過ごせそうだ。


「ここにあるものは好きに使ってくれ。冷蔵庫は中身がないけど、後で適当に補充するから。シャワーはいつでも使えるから。冷蔵庫の隣にある棚には皿やらコンロやらあるから、それも自由に使え。ゴミはそこ」


 雨竜が入口の土間の端を指した。鉄色のバケツのようなものがあった。

 歩は靴を脱いで畳に上がり、荷物を下ろすと、見回してみた。右奥にシャワーと書かれた戸があり、手前にタオルが積まれて置いてあった。更に手前には水場がある。淡い青色のタイルが貼られた、廊下においてあるものと同じもののようだ。

部屋の反対側に目をやると、冷蔵庫が木の棚と寄り添うように置かれてあるのが見えた。それに皿とコンロが置かれているのだろう。隣に布団が積まれてあったが、遠目に見てもほこり臭そうに見えた。


――ここが、当分の寝床か。

 案外、居住空間としては十分なように思えた。


「ふむ、これが飯か」


 声の主はちゃぶ台の上にいた。

 置かれたあったものの包みを外し、中を覗き込んでいる。


「ああ。それで頼む」


 雨竜は土間から上がって来ない。そちらに目をやると、ちらっと壁時計に目をやっていた。


「私はまだやることがあるから、席外すけど、できるだけここから外に出ないでくれ。後で色々持ってくるから。頼む」


 そう言うと、雨竜は出ていった。

 残された歩はというと、とりあえずもう一人の同居人の所に近付いた。

 アーサーが近付いてきた歩を見た後、言った。


「これを見よ」


 包みを解かれた中身は弁当だった。ぱっと見、何もおかしくないように見える。


「これがどうした?」

「このような粗末なものを夕食にするのか?」

「粗末?」


 注意深く見てみる。なるほど、米はべちゃべちゃして潰れているし、揚げ物はギトギトして容器の端に油が白く浮いている。匂いも生臭いとまではいかないが、余り食欲を湧かせてくれるものではなかった。

 確かに粗末といえば粗末だ。だからといって、特別どうこう言うことには思えない。


 歩はアーサーの不満を無視してアーサーに詰め寄った。

 少し懸念があったからだ。


「アーサー、いいか?」

「なんだ」

「お前、キヨモリと一緒に住むようになるけど大丈夫か?」


 このところキヨモリに対して拒絶反応は見せていないが、それでも気になった。

 もし昼食の時も我慢をしてきたというのであれば、それがこれから一日中になるのだ。部屋は別とはいえ、壁を挟んで隣でもきついのではなかろうか。

 アーサーはあっけらかんと答えた。


「何がだ? 我のなにが大丈夫でないというのか」

「いや、キヨモリとずっと一緒辛くないかなって」

「ふん、そんなことはない。お前の見間違いであろう」

「真面目に答えろ」


 アーサーが歩の顔を見た。あきらめたように口を開いた。


「我が乗り越えるべきことだ」

「それはなんだ」

「言わぬ」

「なんで言わない」

「お前には関係ない」


 突き放して来るような態度に腹が立ってきた。ここにいたってまだ言わないのか。

 昔は何度も聞いたが、そのたびにはぐらかされて終わった。最近では、もうほとんど聞くことはなくなっていた。

 だが、つい口に出してしまった。おそらく今までで最も真剣な雰囲気の中で。


「俺にも言えないのか」


 アーサーの返答は、少し弱弱しくなった。


「……今は」

「俺のことが信頼できないか」

「そうではないが――今は」


 歩は悲しくなった。

 しばらく沈黙が二人を包む。

 膠着状況を破ったのは、入口から聞こえてきた声だ。


「あ、もう来てたんだ」

「おう、早いな」


 みゆきだった。後ろにはイレイネと唯の姿も見える。


「二人の家行くみたいだから、もうちょい時間かかるかなと思ってた」

「私の家こっから近いからね。歩く距離としては、みゆきの家との往復だけみたいなもんだったから」


 唯が遠慮なくずかずかと上がってきた。

 その後をみゆき、イレイネと続いてくる。キヨモリの姿はない。


「キヨモリはどうした?」

「隣の部屋で寝てるよ。あいつねぼすけだから」


 唯は上がってくると、興味深そうにあたりを見回した後、クシャっとした笑顔を浮かべた。


「うん、あんま変わんないね。それでどうする?」

「適当に飯食ってシャワー浴びて寝るだけじゃない?」


 そうか、と唯はまた笑った。笑いの意味がわからないが、少し困ったような顔が輝いて見える。

 ここで、アーサーが口を挟んできた。


「我はこんなもの食えんぞ」

「ん? そんなに美味しくなさそうなの?」


 唯がちゃぶ台の方に寄ってくると、アーサーの頭越しに弁当を見た。


「うーん、まあ美味しくなさそうではあるね」

「これが夕食などありえん」


 ここのところアーサーの食べたご飯といえば、朝は類の作り置き、昼は特製肉まんだし、夜は類がいるのが続いた。舌が肥えているのはわかる。

 アーサーはけわしく眉をよせて歩に言った。


「まさか、我にこのような飯を食わせるというのか?」

「かといっても、どうしろと? 外に出られない以上、これ食うか食わないかしか選択肢なくないか? いっそのこと外に出て適当に買いだしする?」

「それいいね」


 返答はアーサーではなかった。

 声の主は、唯。ニコニコとしつつ、言っていることは過激だ。


「買いだし行こうよ。みんなで動けば大丈夫だって!」

「そうだ。行くぞ! 美味しい飯が我を待っている!」

「お前らなんで息あってんだよ」

「美味しい飯の前では皆同胞となるのだ」


 助けを求めようとみゆきを見る。

 柔らかな微笑を浮かべており、止める気はないようだ。


「じゃあ行くぞ。今から行けばまだ店も空いている!」

「もう夜だけど、大丈夫?」


 窓越しに外を見ると、もう真っ暗になっている。

 アーサーが鼻高々に言った。


「大丈夫だ。ちょっとした伝手があるからな」

「本当?」

「本当」

「何故我を信用せん」


 唯はみゆきに確認をとった。

 歩も伝手があるのは知っている。むしろその伝手は、みゆきやアーサーよりも歩のほうが強い。

 ただいまいち乗り切れない。

 何故ここまで乗り気なのだろうか?

 アーサーはまだわからんこともない、というか相方の横暴には慣れているが、唯の態度は奇異に写った。少し興奮したように頬が赤らんでおり、竜殺しのことなど忘れきっているようだ。


本当に外に出ていいのだろうか。

 学校側の対応にはまるで危機感が感じられない。適当にその場を過ごしているようにしか思えないほど、甘さがある。

 かといって、自分達まで適当に事を済ませていいか。


 どう結論づけようと、燃えたぎるアーサーと唯は歩一人では止められそうにない。


「じゃあどうやって出る? 流石に表からは出られないんじゃないか?」

「そんなことは容易いことであろう」


 アーサーはぱたぱたと飛んで、窓際に移った。


「いい夕闇だ。これならば、空を駆ければわかるまい」

「どうやって?」

「図体ばかりでかいやつがいるだろう」

「あっ」


 唯の顔を見る。

 きょとんとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ