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D☓D☓D ーダンジョン探偵Dー  作者: 健人


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13/14

その名は、ダディ(13)

「た、探偵って何だ! お前のような探偵がいるか!」

「ま、やってる事が探偵ぽくないって、ちょっと自覚はしてるけどさ」

 ダディは苦笑しつつ、「世の中には主に肉体言語で交渉する交渉人(ネゴシエーター)ってのもいるらしいから、まぁいいんじゃないのかね」


「何を言って――」


 一歩、足を踏み出すと、男がビクッと体を震わせた。


「もういいかな? ほんじゃあ、お縄に――」


 その瞬間、男の周囲から衝撃波のようなものが放たれて、ダディを襲った。辛うじて防いだダディだったが、後方へと押しやられる。


「コンニャロ、往生際の悪い――」

『待て。……様子がおかしい』


 その声にダディは足を止める。ゆっくりと立ち上がった男の足もとに、魔獣を召喚した時のような光輪が広がっていた。


「俺自身が手を下すなど――。できればこの手は、使いたく無かったのだがな」


 下から風が吹き上げているかのように男の髪の毛が、肉が、そして全身が浮き上がる。何だ? いや、これはまさか――。

 男がズン、という重低音と共に着地した。いや、体の位置は変わっていない。脚が伸びたのだ。ブーツを突き破って地面に喰い込んだ毛むくじゃらの両足。次いで上半身が膨らんだと思うと、爆発したかのように服が弾けて巨大化したそれが剥き出しになる。同時に顔の肉がぐにゃりと歪むと、鼻と口が前へと突き出し、大きく裂けたその口の中には何本もの牙が並ぶ。


 上から下まで全身を灰色の獣毛に包んだ、ヒトでも魔獣でもない、異形の怪獣。


「~~見たか! これが神が俺に与えた奇跡よ!」


 さすがのダディも呆気にとられて、男の変身の様をただ眺めている――ように見えた。が、


『――驚いたな』

「ああ、こんな下っ端にまで、融合化がされてるなんてな」

 ダディは髭をしごいた。「だがまあ、これでハッキリした。奴は生きていて、その研究は進んでる。それが分かっただけでも、ヨシとするさ」


『まぁ、仕方あるまい』

「何だ!? 何をぶつぶつ言ってやがる!」


 その悠然とした態度を見て、男――怪獣は困惑する。


「あのなぁ、オッサン」

 ダディは1つため息をつくと、「教えてやるけど、それは奇跡なんかじゃあないぜ。お前さんは、魔法をかけられたんだ。それもまだ完成していない、融合魔法ってヤツをな。一見バランスは取れてるようだけど、いつどうなるか、分からないぜ」


 人間と魔獣の融合。それが、融合教の目指す最終目的。だがそれを知る者は、教団の中でも殆どいないに違いない。


「~~奇跡を愚弄するかっ! 地獄へ落ちろォっ!」


 空間全体に揺るがす咆哮と同時に、怪獣が駆け出してその腕を振る。節くれ立ち、鋭い爪が生えたその先から衝撃波なのか、空気を切り裂く音と共に正面の壁まで深く抉られた。


「……まぁまぁの完成度、だな」

 直前で避けたダディは唇を舐める。「しゃあない、やるか」


『待て、我にやらせろ』


 剣に手を伸ばそうとしたその時、頭の中の声に動きを止める。


「……マジで?」

『ああ。久し振りに、暴れたくなった。栄誉補給もしたばかりだしな』


 ――やれやれ。コイツは一度言い出したら、聞かないんだよな。


「あ〜、オッサン。言っておくけど、降参するなら今の内だよ」


 怪獣は耳を貸さずに突進し、壁に衝突して瓦礫の山を築く。


「本当はキズ1つ付けないように優しくしたいんだよ? 俺は。でもさ、もう少ししたら、俺(・)じ(・)ゃ(・)あ(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)う(・)ん(・)で(・)。そうなったら、アンタどうなるか保証出来ないよォ」

「戯言を!」


 怪獣が腕を振ると同時に、吹き飛ばされた大量の瓦礫が殺到する。


「っ、ととっ!」


 風圧で飛ばされそうになる帽子を押さえつつ、華麗な身のこなしでそれらをかわし、ダディは男へと近づく。怪獣が目をむいてさらに瓦礫を放とうとした時、ダディが動きを止めた。


「……来た」


 帽子を押さえていた左手を外して、ゆっくりと顔の前まで下ろす。その手が、手袋の上からでも分かる程に細かく震えている。


「~~あぁ、どうなっても、知らんぞ」


 左手が、左目にかかっている前髪に触れる。その髪の毛とら指の間から漏れる、深紅の輝き。


「――光、だと?」


 困惑する怪獣の前で、ダディは前髪を寄せた。左目が露わになり、怪獣は反射的に目を背ける。だが、見た。直視できない程に眩い光を放っている、ダディの左目。そこには縦に長い瞳孔が穿たれているのを。

 マントが動いている。畳まれて――いや、逆だ。広がっているのだ。あれは、マントではない。翼だ。細長い骨格に支えられた、皮膜。巨大な片翼。それが、こちらを威嚇するように音を立てて羽ばたく。ダディが手袋を外した。現れたそれは全体が鱗に覆われた、人外の手。次の瞬間、爆発するように巨大化する。掌、前腕、上腕、肩へと次々と連動し、異形を形作る。左側だけ大きく裂けて歪んだ口。光る牙。


 怪獣はその動きを止めていた。動けなかった。脚が、全身が、精神そのものが怯えて、立ち竦んでいた。


「お、お前、それは――」

「俺ぁ、知らんぞ」


 ダディがぽつりと呟いた。次の瞬間、その姿が消える。


「~~どうなっても知らんぞォっ!」


 怪獣が最後に見たのは、自身を押し潰さんばかりに迫る、鋭い爪を鈍く光らせた、巨大な腕だった。

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