その名は、ダディ(12)
曲がりくねった真っ暗なその抜け道は、一瞬どこまで続くのかと不安を抱かせたが気付いた時には正面に白い出口が口を開けていて、あっ、と思う間もなくタディは床に尻を思い切り打ち付けていた。
「いつつ……思ったより、近かったな」
『ああ、良かったな。4階層だ。ところで、体は丁寧に扱ってくれ。痛みは、我にも伝わるんだからな』
はいはい、とボヤき、尻をさすりつつ立ち上がる。
『――来るぞっ!』
振り返るより先に、マントが動いていた。防いた先で起こる爆発。〜~おおっ! 派手っ! マントを振り、熱気を払う。
そこは、広い空間だった。何も無い殺風景な部屋の中央に男が立って、掌をこちらに向けている。
「フン、やはり効かんか」
男が鼻息を鳴らす。
「そういうこった。いい加減、大人しく捕まってくんない?」
「だが――魔法でなければ、どうかな?」
男はダディの言葉を無視して、不敵に笑った。
「剣技か、格闘ってか? やめときなって。アンタどう見ても、俺より上には見えないぜ」
「誰が、自分で戦うと言った? 司祭たる私が、そんな手間をかけるわけがなかろう」
男が指を鳴らすと、床にいくつかの光輪が浮き出した。光が消えると、そこには魔獣の姿。
「ハウンドウルフ? ……いや、違うな」
群れをつくり、集団で狩りを行う狼型の魔獣。だか、何かがおかしい。
『融合魔獣、だな。ここは、キメラの実験場という事か 』
頭の中の声が、今にも唾棄しそうな様子で吐き捨てた。異なる種族の魔獣を魔法で人工的に融合させた、本来この世には存在しない生物。——そして、融合教が真に目指しているものの、副産物。
「馬脚を現してくれた——って事でいいのかな?」
『運動能力がかなり向上している。だがメインは、指揮系統の調整だな。元々群れのリーダーの命令に従って狩りをする奴らだ。今のリーダーは——』
「あいつって事ね」
ダディは肩をすくめた。「やれやれ、そんなリーダーで大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題無い。——いけっ!」
男の号令と同時に、ウルフ達が疾走する。数は……5匹、か。
「あまり使いたく無かったけど、しゃあないな」
留め具のボタンを外し、ダディは剣を抜いた。その刀身は地味な鞘に収まっていたとは思えない程に艶やかで、それ自体が光を放っているいるかのように白く、剣先の軌跡が空間に残っているように見えた。魔獣ともども一瞬気圧された男だったが、構わずに攻撃を指示する。距離をあけてダディを囲んでいたウルフ等は一匹、また一匹と順にダディへ飛びかかる。だがその都度振られる白い軌跡により、ウルフ達は呆気なく倒されていった。
——そして、5回目の魔獣の悲鳴が消えると同時に、ウルフ達の姿も全て消えていた。ダンジョン内で魔獣を倒した際、死体が残る等の 戦利品を得られるかは完全なランダムだが、
「キメラは証拠隠滅の為、死んだら必ず消滅するんだっけか」
ダディは一つ息をつく。「おたく、やっぱりリーダーに向いてないよ」
「な、何だと?」
「ハウンドウルフっつったら、集団での狩りだろう? なのにあんな一匹ずつの攻撃じゃあ、各個撃破してくれって言ってるようなもんだ。能力を全く引き出せて無い。キメラだからって、使い潰しは感心しないねぇ」
「ふ、ふん。減らず口を——。ならばっ!」
光輪が生じ、再び姿を現すウルフ型キメラ。数は、7匹!「一斉にかかれっ!」
「へぇ。他人のアドバイスを素直に受け入れるたぁ、感心だね。だが——」
ダディは身を低くして、剣を肩に担ぐように構える。7匹が一斉に飛び掛かった次の瞬間、男の眼にはダディの周りを白い光る円が囲んだように見えた。それに触れたキメラ等が、灰燼に帰していく。1つの巨大な悲鳴が轟いて空間に消えた後、そこに立っていたのはダディ1人だけだった。
「一斉攻撃ってのも、難しいモンなんだよな」
刀身の輝きはあくまで冷たく、一点の曇りもみられなかった。
「お、お前一体……」
真っ青になった男は後ろに下がろうとして足をもつらせ、床の上に無様な姿を晒す。
「さってと、そろそろ観念して貰おうか」
ダディは近づき、切っ先を男に向ける。男の全身から脂汗が噴出す。
……何だ? この威圧感は。眼の前にいるのは、確かに腕は立つがどこにでもいるような中年の冒険者に過ぎない。だがまるで、巨大な魔獣に見下されているような――。
「っと、その前に、だ。ちょっと個人的に、訊きたい事があんだよね。答えて貰っちゃったりしてもいいかなぁ?」
ダディはしゃがみ込み、懐から1枚の紙を取り出した。人相書きだ。それを見た男の顔色が変わった。
「知ってるよな? マイレン・マイサーマイヤー。融合教の教祖様ってヤツだ。――コイツの居場所、知ってる? ああ、聖地に居ないってのは知ってるから、そこ以外で居そうな所を教えて欲しいんだよね」
「し。知らん!」
男がたるんだ頬の肉が千切れんばかりに首を横に振った。「そのような高貴な方の居場所など、俺のような下々が知ってるワケないだろう!」
「~~ま、そうだろうとは思ったんだけどさ、念のためだよ」
人相書きを懐に仕舞い、ダディは肩をすくめる。
「お、お前、何者だ! その方に何の用があって——」
「何の用ってのはナイショだけど、一応答えてくれたお礼に、自己紹介くらいはしとくよ」
ダディは剣を鞘に収めて、ニヤリと笑った。「ダディ・ドゥカチ。人呼んで、<ダンジョン探偵>さ」




