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女友達に付き合ったら人生が暗転した  作者: 北見晶


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見た目とかも教会と違うのかな?


「あー、疲れた疲れた!」

 課題が終わるや、マグシット・ウォーエズ子爵令息は食堂の椅子に座り、息をついた。

 マサニエラン王立学園の騎士科に所属する彼、教官の指導を日々受けているが、今日も例外ではない。

 いや、夏の強化合宿で自宅から離れた山にある宿舎で数日間過ごし、鍛練に励むのだからむしろ普段よりハードな内容になるのは当たり前。

 頭ではわかっているが、それでも疲れは溜まるしストレスも溜まる。


「ホントホント。アタシ教官が悪魔に見えたもん。ってか、悪魔が取り憑いたんじゃないって?」

 合い向かいに座った、カロンナ・ピピエ男爵令嬢がぼやく。令嬢らしからぬ砕けた口調だが、マグシットに咎める理由はない。


 マグシットもカロンナも一年生で、同輩にあたる。同級生の女子は他にもいるが、ウォーエズ子爵令息にとって、ピピエ男爵令嬢は男女の垣根を越えた友人であった。

 


 夏も盛りに向かう時期だが、王都から離れたこの辺りは涼しく、避暑地としても持って来いだ。

 だが、必ずしもすべてがよい方向に回るとは限らない。

 

 例を上げれば、王都から離れた涼しい場所で、暑い季節を過ごすのが流行と化した一時期、とある場所では別荘が乱立したがゆえ物取りも多発したのだとか。それならまだいい方で、盗賊どもが徒党を組んで一帯を襲撃した事例も。

 

 宿舎が建てられた近辺では、前述のような血生臭い凶行が起きてはいないらしいが。


 全員が揃ったところで、食事の始まりだ。

 栄養を摂取しないと、身体が持たない。皿に山と盛られた料理を、次々と口に入れていく。


「……これホリーネアさんが見たら発狂するかもね」  

 悪戯っぽくカロンナは歯を見せる。

「かもな」

 スモークサーモンのオムレツを口に突っ込み、短く答えたマグシットだが、眉を寄せそうになった。


 ホリーネア・ゲネラベディ。

 ゲネラベディ伯爵家長女で、マグシットの婚約者である。

 十歳のときに婚約を結んだのだが、正直息が詰まって仕方がない。

 顔を合わせれば、あれやれこれやれ、あれはするなこれはするなの、小うるさい女。

 容姿はまあ……吐き気をもよおす醜女ではないが、好みではない。

 長い黒髪を引っつめ、メガネごしの赤い両眼は不気味である。濃いめの短い金髪に、アクアマリンの双眸を持つマグシットの側にいると、どうしても浮いてしまう。

 肩までのオレンジブロンドと、水色の瞳をしたカロンナの方が、余程しっくりくる。


 現に、友人たちは「あんな堅苦しい女が婚約者だなんて大変だ」「どうせならもっと美人か美少女がよかったよな」「両親ももっと考えてほしかったよな」などと慰めてきた。


 カロンナを連れて一緒に話しているときもだ、

「もう少し声を小さくしたらどうですか?」

「周りのことも考えてください」

「わたしはあなたに聞いているんです」

「カロンナ様の前でする話ではございませんので」

 などなど、四角四面で融通きかないのが丸分かりだ。

 料理を頬張った姿を見たら、まず説教を垂れるのは容易に想像できる。


「ああ、そういえば……」

 マグシットは思い出した。

 あまりにもホリーネアがやかましいので、婚約解消の書類を突きつけたらおとなしくなった。いつも通りの無表情だったのが癪に障ったが。


「ちょっとぉ! それまずいんじゃない!?」

 大きな声で手を振りながら、カロンナは笑う。

「何がだよ? むしろ俺は今まで我慢してきた自分を誉めてやりたいぜ。あいつがお前みたいにおおらかならよかったのによう」

 気心のしれた仲間とあって、つい本音が漏れてしまう。


「お? どうしたどうした?」

「なーに話してんだよ?」

 軽口を叩いて合流したのは、男爵令息のマナス・ベイデスと同じく男爵令息のコヴァ・オレント。マナスは茶髪にハシバミ色の瞳で、コヴァは赤毛に赤い瞳をしている。

「ああ、実は……」

 カロンナに話したのと同じ話を、マグシットは二人にも教える。


「で、お前はどう答えたんだよ?」

 ローストポークを呑み込んでから、マナスはカロンナに尋ねた。

「アタシぃ? 『ちょっとぉ! それまずいんじゃない!?』って。でも気持ちわかるよ。あの人ネチネチネチネチしつこいんだもん」

「だよなあ! ったく、結婚前から妻気取りはやめてほしいぜ!」

 ピピエ男爵令嬢の愚痴に、ウォーエズ子爵令息はうなずいていた。


「-ーそう言えば、知ってるかな? この近くには廃寺があるんだって」

 唐突に、コヴァが言う。

「ハイデラ?」

 初耳の単語を、マグシットは口の中でこね回すように返した。


「この辺りは以前、インヤン国の国土だったらしいんだけど、インヤン国は人間が神の如し尊き力を得た『イム』なる存在とその眷族(けんぞく)の教えに重きを置いた『イム教』を信仰しているんだ。イム教の出家者が住んで、修行を行う場所を『寺院』って言うけど、もう人が誰もいなくなったんだってさ」

 長々とした解説を済ませたオレント男爵令息は、水を一気に飲んだ。


「へー、じゃあさぁ、見た目とかも教会と違うのかな?」

 軽やかなピピエ男爵令嬢の音吐が、ウォーエズ子爵令息の鼓膜を揺らす。自然と鼓動が早くなった。

「ねえ、それどの辺りにあるかわかる?」

 人懐っこさをあらわにして、カロンナはコヴァに訊いてくる。

「そこまではわからないよ」

 解答者は頭をかいた。


「おいおい、お前ら。早く食わないとヤバいぞ」

 マナスが顔を引きつらせている。

「あー、本当だ。早く食おうぜ」

 マグシットが声をかけると、他の三人も手を早めた。






 

 

 




 架空の仏様関係を出したかったのですが、流石に「仏教」を生で出すのはまずいと考え、あのような形にしました。

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