眠れない理由
夜。
亮は、布団の中で天井を睨んでいた。
目は閉じている。
だが、眠れない。
昼間の光景が、何度も脳裏に浮かんでは消える。
立花恒一。
殴ろうとしても、当たらなかった。
押しても、動かなかった。
睨んでも、睨み返してこなかった。
——あの顔。
感情がないわけじゃない。
ただ、こちらに向いていない。
それが、腹立たしかった。
「……ふざけんなよ」
小さく呟く。
声に出したところで、何も変わらない。
亮は、寝返りを打つ。
スマホに手を伸ばすが、画面を見る気にもなれず、また戻す。
——俺は、間違ってない。
心の中で、何度も繰り返す。
向こうが変なんだ。
普通じゃない。
なのに。
クラスの連中は、引いた。
教師も、あいつを叱らなかった。
「……意味分かんねえ」
歯を食いしばる。
殴ってない。
殴られてない。
それだけで、全部が終わった。
——終わった、はずなのに。
胸の奥が、じくじくと疼く。
亮は、自分の手を見る。
震えてはいない。
弱くもない。
それなのに。
(……なんで、あんな奴に)
言葉が続かない。
その時だった。
部屋の空気が、少しだけ重くなった。
肌にまとわりつくような、嫌な冷たさ。
気のせいだと、思おうとした。
でも。
耳鳴りが、じわりと広がる。
——ほら。
——やっぱり。
——おかしいだろ。
亮は、身を起こした。
部屋は暗い。
何も変わっていない。
なのに。
「……誰だよ」
答えは、返ってこない。
ただ。
自分の中の苛立ちだけが、妙にくっきりと輪郭を持ち始めていた。




