表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/80

説明役、交代

 「……天羅」


 低い声が、部屋に落ちた。


 それだけで、赤髪の女性――萃華の動きが、ぴたりと止まる。


 「はい?」


 振り返る。


 その視線の先に、立花くんが立っていた。


 いつの間にか一歩前に出ている。


 「説明が、先だ」


 短い一言。


 萃華は一瞬きょとんとしたあと、にやりと笑った。


 「あ、そうだった」


 あっさり。


 「じゃ、交代!」


 そう言って、一歩下がる。


 ……本当に下がっただけだった。


 視線は外さないし、メジャーも手放していない。


 立花くんは、気にしない。


 穂乃香の前に立つ。


 距離は、近すぎない。

 でも、逃げ場を塞がない位置。


 「……怖い思いをさせた」


 最初の言葉は、それだった。


 穂乃香は、思わず首を振った。


 「い、いえ……」


 助けてもらったのに。謝られる理由なんて、一つもないのに。

 本当は、怖かった。でも、それ以上に、目の前の彼らの存在に混乱していた。


 「簡単に話す」


 立花くんは、淡々と続ける。


 「君は、見える側だ。

 自覚は、ほとんどないだろうが」


 胸が、どくんと鳴る。


 「それで、目を付けられた」


 言い切りだった。


 否定の余地を、与えない。


 「昨日の件は、偶然じゃない。

 今後も、放置すれば同じことが起きる」


 そこで、ほんの一瞬だけ間が空く。


 「……次は、助けられるとは限らない」


 穂乃香は、息を呑んだ。


 怖い。

 でも、不思議と逃げたいとは思わない。


 立花くんは、少しだけ視線を落とした。


 「だから」


 顔を上げる。


 「正式に、保護下に入ってもらう」


 横から、即座に声が入る。


 「はーい!

 強制じゃないけど、実質強制ね!」


 萃華が、元気よく補足する。


 「選択肢は一応あるけど、

 安全なのは一択!」


 ……台無しだ。


 でも、立花くんは続ける。


 「君の生活は、できるだけ変えない。

 学校も、塾も、続けられる」


 「ただし」


 少しだけ、声が低くなる。


 「一人で夜に出歩かない。

 異変を感じたら、必ず連絡する」


 穂乃香は、唇を噛んだ。


 頭では、まだ追いついていない。

 でも、心はもう答えを出している。


 「……分かりました」


 自分の声が、思ったよりはっきりしていた。


 萃華が、ぱっと表情を明るくする。


 「よっしゃ!」


 拳を握る。


 「じゃ、今日からここは仮住まいね!」


 「天羅」


 「はい?」


 「“巣”だ」


 「……あっ」


 一拍。


 「……仮住まいの巣!」


 何も解決していない。


 穂乃香は、思わず小さく息を吐いた。


 でも。


 この人たちと一緒なら、少なくとも、一人で怯えることはない。


 そう思えた。


 それが、正式な保護の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ