第九話 ブラン①
次の日。
ブランの捜索という任務が加わったことをノワールに報告すると、
「そうか。なら仕方ないことだな、そちらを優先するべきだ」
と言って快く許可してくれた。
しかしながら、ブランの居場所が分からない以上、一つの惑星を(と言っても限りは有るし、この近辺という見当はついているものの)探すには流石に骨が折れる。その旨を伝えてしばらくはここの依頼もきちんと受けていくということも合わせて伝えると、感謝ノ言葉をかけてくれた。別に悪いのはこちらなのに、とシロは思いながらその言葉を受け入れた。
「見当がついていないなら、一度山に登ってみるのはどうだ?」
何も依頼が無いので手持ち無沙汰だったところに、ノワールはそう切り出した。
「山、ですか?」
「そうだ。山は良いぞ。周囲を見渡すことが出来るし、空気が美味い。だから山に登って状態の確認をするのは有りなんじゃないかな?」
宇宙人の掃討という任務を課せられている僕たちがそんな暢気なことをして良いのか、とシロは思ったが、
「宇宙人の掃討は我々に任せろ。お前達は加えて別の任務……そうだ、別の任務を課せられているんだろう? だったらそちらを実行すべきだ。そうだ、そうすべきだ」
そう言われて、半ば強引に彼らは近所にあるという山に登る羽目になった訳だ。
◇◇◇
「というか……山って結構辛いものなんですね……」
「私たちには辛いというステータスは無いはず」
「無いけれど! 無いですけれど!」
しかし、こんなに登るとは思わなかった。
はっきり言って、こんな急勾配の山だとは思わなかった。
「……それにしても、急勾配過ぎやしませんか!!」
「そうかな。私はそうは思わないけれど」
「さっきから息ずっと整ってますもんね!!」
「身体を動かしていないだけだと思う」
ぐうの音も出なかった。
それ以上言えることでも無かった。
「やっと着いた」
先に歩いていたローズが言うと、シロはほっとした表情を浮かべた。
「やっと着いた!」
広がっていた景色は、瓦礫の山だった。瓦礫の山が大半を占めていた。しかしながら綺麗に均された部分としてレジスタンスの基地があったり、タツマキの村があったり、城塞があったりと、今まで見たことのある景色が広がっていた。それ以外には、大きな塔があったり、宇宙船があったり、小さな港があったり……。
「ん!? 宇宙船!!」
景色を戻して見ると、港のところに宇宙船があった。
円盤形の船のようなそれは、地面に鎮座していた。
「あ。確かにあんなところに宇宙船があるね」
「なんで誰も気づかなかったんだ! 急いで行こう、ローズ!」
「待って。一応レジスタンスに報告してから」
「そうだね! ええと、ムラサキのトークンアドレスは……」
急いでムラサキに連絡。山の向こうに宇宙船がある旨を連絡済ませると、急いでその場所へと向かうのだった。
目的地は、港の傍にある宇宙船。
◇◇◇
宇宙船はちょうど入口が開いていた。
「入口が開いているんだけれど……罠か?」
「罠かなあ。どうだろう? 入ってみないとさっぱり分からないけれど」
「でも入ってみて罠だったら?」
「そしたらそのとき」
そう言って剣を構えて中に入っていくローズ。
シロはそれを見て、どうしたら良いのか分からなかったが、ローズが入っていくのを見て、仕方なく一緒に入っていくことにした。
宇宙船の中は、たくさんの試験管が大きくなったようなものが並べられていた。
しかしながら、その全てが割られていて、中から液体が滴り落ちている。
「中は誰も居ない……?」
「宇宙人は逃げ切った後なのかな……」
シロとローズはゆっくりと慎重に先に進んでいく。
そして、一番奥にたどり着いたその先には――。
「何。これは……!」
床に人間の死体が大量に敷き詰められていた。
「ひどい臭い……」
シロは鼻を押さえながらゆっくりと進んでいく。
しかしながら、誰も出てこなかった。
「誰も出てこない。ここはいったい何の施設なの……?」
「ここは、宇宙人の宇宙船だよ」
後ろから声が聞こえて、二人は振り返った。
そこに立っていたのは、ブランだった。
「ブラン……!」
「どうしてここに!」
「私は、宇宙人の行方を追ってここまで来た。貴方達は、いったいどうしてここに来たの?」
「私たちは、山を登って、そこからここを見つけて……」
「貴方達はそうやって見つけたのね。私は、何とか見つけたのだけれど……」
踵を返すブランを見て、ローズは叫ぶ。
「待って!!」
シロは見たことの無い叫びを見た気がした。
ローズは寡黙な印象を抱いていたからこそ、そのような叫びをするとは思いもしなかったからだ。
「……何。貴方はいったい何をしようとしているの?」
「私たちは、貴方を破壊するように命じられた」
剣を振り払うローズ。
それを見てナイフを取り出したシロ。
それを見たブランは、シロとローズが臨戦態勢になっているのを確認して、ちゃきん、と剣を鞘から抜きだした。
刹那、三人は戦闘のために動き始めた。




