第十話 ブラン②
ガキン、ガキン!! と。
剣がぶつかり合う音が二度あった。
それは人間の目で観測するには、あまりにも速すぎる出来事であった。
今の二度で、ローズとブランは剣をぶつけ合った。ただ、それだけのことだった。
しかしながら、速度が速すぎる。
だから捕捉しようにも、捕捉することが出来ない。
同じ機械人形であるシロですら、それを捕捉するのに『集中』する必要があるぐらいなのだから。
「速い……! そして、僕が何か手出しする必要も逆に見えてこない……」
残念ながら。
彼の言っているとおり、今シロが入っていく隙は見当たらない。
見つからない、と言ってしまった方が良いのかもしれない。
いずれにせよ。
彼が思っている以上に、彼女たちが行っている戦いは、高度だったということ。
そうとしか言い様がないし、そうとしか言えるはずが無かった。
ガキン、ガキン!! と。
さらに二回、ぶつかり合う音があった。
音はさらに続いていく。
ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン、ガキン!!
数え切れない回数の、金属同士がぶつかり合う音。
それを聞いて簡単に入れないということを察していくシロ。
しかしながら、ローズの手伝いはしなければ一緒に組んでいる意味が無い。
(ローズ! ブランにハッキングを仕掛けます!)
(そんなこと出来るの、シロ!?)
(型式は同じなんですから出来るはずです! 番号的に言ってしまえば僕たちの方が最新型なんですから!!)
(だったら、お願いするよ、シロ!)
そう通信を終えて。
彼女たちはそれぞれ行動を開始する。
ローズはそのままブランの気を惹く。
対してシロは何とかブランの脳にハッキングできないか無線通信を試みる。
識別番号は分からないから、微弱な電波を読み取ってなんとかはっきりさせるしかない。
たとえ通信を遮断していても、機体からは微弱な電波を放っている。それを読み取って、うまく使うことが出来れば……。
しかし、それは、蜘蛛の糸を掴むような難しさ。
簡単に出来るような話では無い。
しかしながら。
「……掴む!」
電波を、掴み取る。
目をかっと見開いたシロはそのままブランの脳内へと入っていく。
意識は深く、闇の底へ落ちていく――。
◇◇◇
白い世界。
どこまでも続く、真っ白な世界。
そこにシロは立っていた。
もっとも意識そのものが立っている訳であり、彼の実体がそこにある訳では無いのだが。
「……ここが、ブランの脳内……?」
白い世界には、オブジェクトが幾つも並べられている。
そんな世界が、彼女の脳内世界だった。
そしてそんな脳内世界は、機械人形の数だけ存在している。
そして脳内の奥に残されている記憶というのが――。
「長期記憶、ですか。メモリに記憶が存在している僕たちにとって、0と1で圧縮していく記憶には限りが有ると思っていましたが」
そして。
その記憶の中を覗き込む――。
◇◇◇
「――っ!」
記憶を覗き込んだ後、彼は思わず接続を切った。
そして、目の前に広がっていた光景は――、彼を斬ろうとするブランとそれを止めるローズの構図だった。
「貴様……。私の頭の中を覗いたな! ずかずかと、土足で私の脳に踏み込んできたな!」
「やめろ。ブラン! やめてくれ!」
ローズは叫んで、何とかブランの攻撃を押さえこもうとする。
しかしながら、ブランの力は強く、徐々に徐々にその足が後ろに下がっていく。
「止めるな、ローズ! 私の記憶を勝手に覗いた、その罰を与えなくてはならない! こいつは、こいつは……」
「ブラン。君は……、いや、あなたは……いったい何を知っているんだ……?」
シロの言葉に、ローズは耳を傾ける。いったい何を言っているのか、という感じだった。
ブランはそれを聞いて、舌打ちをする。
後ずさり、間合いを取る。
それを見たローズは剣を構え直し、何とかシロを守ろうと尽力する。
しかしながら、ブランが取った行動は、剣を収めることだった。
「ブラン。何を!」
「これ以上戦う意味は無い。彼がそれを知ったなら」
「待ってくれ、ブラン! あなたは、あなたは、どうしてその事実を知ることが出来たんだ!? 理由が説明できない! 教えてくれ! どうして、その事実を……」
「五月蠅い! それからは、自分で考えろ!」
そう言って。
ブランは走り去っていく。
その姿を、敢えてローズは追わなかった。
ローズは、シロと向き合って、話を始める。
「……シロ。あなたはいったい何を見たというの」
「きっと話したところで理解して貰えるかどうか分からないけれど……。いいや、話しておかないといけないべきなんだと思う。これは、僕たちが共有するべき課題だ」
「どういうこと」
そして、彼は結論から述べていく。
「良い? 僕たちが宇宙人だと思っていた存在……それは『別次元からやってきた人間』だったんだ」




