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しかしである。
哀しみに暮れて一週間を過ぎた辺りから、俺は次第に怒りを憶えるようになっていた。
何故、奴は綾の名を騙ったのだ?
何故、奴は俺に電話なんぞしてきたのだ?
一体全体、奴は誰なのだ?
今にして思えばギターを抱えた綾の写真だって、顔を差し替えたコラージュだったのだろう。わざわざそんな酔狂な真似までして俺を陥れるとは何者だ?
哀しみに怒りと悔しさを上乗せされた俺はだいぶ参っていた。憔悴し切った俺の姿を見て、おふくろが心配している様子が伺える。
(そういえば……)俺は思い出して尋ねた。
「中学時代の同級生から電話があって俺の携帯番号を教えただろ? そいつは何と名乗っていた?」
しかし、おふくろはそんな電話は知らないと言う。ましてや女の子からかかってきたものであれば絶対に忘れず筈が無いとも。
だとすると、元々俺の携帯番号を知っている奴が関係している可能性が大きい。
ところが全く心当たりが無い。番号を教えた相手は男子だけの筈だったし、その大半は高校で知り合った連中だ。唯一の例外は伸一だが、奴がこれほど手の込んだ質の悪い悪戯を仕掛けてくるとは思えない。
電話番号の線から犯人を特定するのは無理だと思われた。かといって動機からホシを特定することも不可能だと思う。
この二ヶ月ばかり、相手は俺と会話をしていただけなのだ。それが仮に「俺を持ち上げておいて突き落とす」というような策略だったとするなら逆に聞きたい。
(それで一体、何がどうなるのだ?)
俺が浮かれたり落ち込んだことで利する者など居ない筈だ。だから、そもそもの動機が解らない。
愉快犯ならばなおのことである。二ヶ月も毎日、電話をかけるなんて悠長な手段を選ぶか?
結局の所、いくら考えても埒はあかないのだった。
手持ちの情報をいくら精査した所で解答が得られないのは明らかだ。
だとしたら……。
最早、取れる手段は一つしか無いではないか。
三日月家に行ってから十日を過ぎた夜だった。
俺は意を決して電話をかけた。




