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美原との電話をいつどのようにして切ったのかも記憶に無い。気が付けば俺は既に通話が切れてしまったスマホを片手に持ったままベッドに伏せていた。
まるで風邪をひいた時のように体が重い。
(毎日、電話で親しく話していた相手が実は死んでいた?)
まるでホラーではないか。
いや、ここはもっと理性的に考えよう。電話で話していた相手が幽霊だった……なんてことは有り得ない。
だから考えられることは二つである。
「綾が死んでいるのは虚構である」か「いつも電話で話している相手が綾とは別人である」かだ。このどちらかでしか有り得ない。
どっちにしてもショックな出来事ではあるが、真相を知らぬままに過ごす訳にもいかないだろうと思う。このまま放っておくという手もアリだし、そう考えなくもなかったが、それではあまりに俺が情けない。
いや、正直に言おう。
この二ヶ月というもの、綾(と思しき人物)と話しているのは楽しかったし、彼女に対しては抜き差しならぬ好意すら抱いていた。
有り体に言えば恋をしていたということだ。
もちろんそれは相手が綾であることが前提なのではあるけれど。
その恋慕した相手が仮に偽物だったとして、誰なのか分からぬまま一切合切をうやむやにして舞台を降りるほど俺はヘタれてはいない。仮に綾が死んでいたらショックで卒倒するかもしれないが、それを知らずにただやり過ごすのは、あまりに間抜けというものだろう。
だから俺は勇気を振り絞って翌日、三日月家へ出向いたのだった。
何かの間違いであってくれ、と祈りながら。
しかし俺の祈りは呆気なく打ち砕かれた。
綾の母親にも会ったし、仏間にも通された。そしてそこには綾の遺影が掲げてあった。何から何まで美原の言った通りだった。それらを垣間見ただけでも疑う余地は無かった。しかし最も雄弁に事実を物語っていたのは焦燥した母親の姿だった。一人娘を喪ってから半年間、ひたすら慟哭に暮れた姿がそこにあった。
これが虚言である訳がない。
そんな人を前に(毎日受けている謎の電話)の話などを持ち出せる筈もなく俺は言葉に詰まった。
自分の折れた心を何とか騙り、不躾が無いように焼香を済ませるのが俺に出来た精一杯だ。
三日月家を出て自宅に辿り着くまでは何とか我慢していたが、自分の部屋に入った途端、俺は泣いた。布団に顔を押し付けて声を押し殺してわんわんと泣いたのだ。
そしてその日から綾を名乗る人物からの電話はかかってこなくなった。
もちろん俺から彼女に電話をすることも無かった。
綾の死という現実を目の当たりにして、素性の解らない相手に電話をかける気力など涌こう筈も無いではないか。




