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「やっぱり原因は持病だって。いわゆる不治の病ってヤツ。ほら、夏休み中に彼女、突然転校したじゃない。あれも治療……というよりはホスピスになるのかな? その為に半ば強制的に学区替えをさせられたとかで……」

 よどみなく喋る美原。

 俺は焦った。

「ちょ、ちょっと待て。いくら何でも人の生死を虚言に持ち込むのは趣味が悪くないか」

 そう言うと美原に怒鳴られた。

「はあ? 何言ってるの? こんなこと冗談で言えるわけないでしょ!」

 様子を伺う限り嘘では無いようだ。それでも嘘であってくれなければ俺が困る。そうでないと本当に(俺と電話をしているのは一体誰だ?)ということになってしまうではないか。

 すると何故か美原が意味深長なことを言った。

「まあ、あなたが落ち込むのは分からないでもないけど」

 どういう意味だ?

 まさか俺が毎夜、綾と電話していることを知ってるのか? もしやそれは美原自身が仕組んだ悪戯だったということは……万に一つも無いか。こいつはそんな無意味な行動をする奴では無い。

 少し頭が混乱しているようだ。

「すまん……。確認したいんだが、お前、それ誰から聞いたんだ?」

「三日月さんのお母さんよ」

「は?」

 どういうことだ? だとしたら妄言を吐いているのは綾の母親だということになる。冗談にしてはブラック過ぎやしないか?

「もしそうだったら相当にタチの悪い詐欺だね」と冷めた声で美原が言った。

「どういう意味だ?」

「私、三日月さんの家に行ったんだよ」

「わざわざ九州にか?」

「どうして九州なのよ。三日月さんの家は三日月さんの家よ。住所は……中学の名簿で確認しなさい」

「いや、だって彼女は引っ越した筈じゃ……」

 綾自身が電話でそう言ってたではないか。

「だからさっき引っ越しとは言わずに転校って言ったでしょ。普通は有り得ないんだけど特例で学区外の学校へ通ってたのよ。末期治療の場合、それを受け入れてくれる学校じゃないとダメだろうしさ」

「………」

 俺は言葉を失った。それに構わず美原が続ける。

「先週末、唐突に田沼先生から連絡があったのね」

 田沼というのは中三の時の担任教師のことである。

「三日月さんが亡くなったって。亡くなったのは二月のことだったらしいけど、先生がそれを知ったのは数日前だったって。今から焼香に行くから委員長だった私にもついて来いって。いきなりだったし、そりゃ少しばかり気が重かったけど立場的に断るわけにもいかないでしょ。だから行ったわよ。そこでお母様から話を聞いたわけ。仮にあれが虚言だと言うのなら遺影やら仏壇やらを取り揃えて私と田沼先生をたばかったということになるわね。もし登間利君が冗談でそれを虚言だと言ってるのなら、それこそ三日月さんのお母様に失礼だと思うけど」

 そこで美原は一旦、言葉を切った。俺は何も言い返せなかった。

 そんな俺に畳み掛けるように美原が言う。

「で、どうして私に確認するような電話をかけてきたのかしら?」

 俺はその問いにも答えることが出来なかった。回答に詰まったというよりは頭が一杯で言葉が出てこないのだ。

 美原は俺の沈黙の理由を測りかねた様子である。

「あなた大丈夫なの? 何だか様子がおかしいわよ」

「……すまん何でも無い」

 そう返すのが精一杯だった。

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