外伝7 ギルド長の最後
レオロ=リスキーの職業は暗殺者である。
甘いマスクと其処等に居る普通な顔を併せ持つ、稀な才能が生れつき備わっていた。
その為、暗殺対象に近づくのに苦労せず親密な関係にもなったし、例え顔を見られても捕まることが無かった。
その日も、王家からの依頼で王家に反逆を企てていた貴族の一家を昼間から堂々と葬り、その他の貴族に警告して来た所だった。
職業『暗殺者』の持つ特殊な能力スキルが発動しており、ましてや自身の顔。
普通に分類されるその顔が、自然と周囲に溶け込ませていた。
「お前さん、暗殺者か?」
その日、突然そう声を掛けられた。
レオロは驚き、伏せていた顔を上げる。
細身の壮年の男が、日焼けして真っ黒になった顔に真っ白な歯を見せて笑っていた。
「ほう、引っかかったな。」
「なっ!」
男は、レオロから血の匂いがすること。そして、気配が薄い事からそう考えたとの事だった。
確かに、レオロの職業『暗殺者』は気配を薄くし、実力者にもなれば脳に入る情報を誤魔化し、目の前に居るのに見えなくする等といった事も可能だった。
ましてやレオロの顔は其処等に歩いている普通の人々の中に完全に溶け込んでいた。
血の匂いをさせていようと、気配が薄かろうと注目されなければ判らない筈だった。
「あんたは一体…。」
「俺か?俺は『冒険者』さ。」
レオロの疑問の声に、男はニカッと笑って答えた。
『冒険者』という職業はこれまで聞いたことが無かった。
男はレオロに語る。
『冒険者』という職業は五感が鋭くなる職業だと。
それで、レオロから漂う血の匂いを感じ、その場所に注目すればレオロが居たと。
「それで、アンタは俺を憲兵所にでも突き出すのかね。」
「なんでだ?」
冒険者と名乗った男は心底不思議そうに首を傾げていた。
今さらだが、レオロが壁を背にしているのと、男がそれなりの身長を持っていたことで、通行人の注目は男の方に向けられる。
レオロの暗殺者としての技能でレオロに注目されなければ、誰も興味は示さない。
堂々と、往来でこんな会話が出来るのもその技能の御蔭であった。
レオロは、男の様子に思わず頭を抱えてしまった。
「いや、普通、暗殺者は見つかれば問答無用で斬首だろ。」
「お前さんは死にたいのか?」
そう、暗殺者という職業は統治者の闇を知っている。
もし拷問等で口を割った場合、国の一大事にまで発展することがあることから、低レベルの暗殺者。
要するに人に見つかるような低能力の暗殺者は斬首と決まっていた。
暗殺者としての技能により、そう易々と見つかることが無いことから、そう打ち首になった暗殺者の数は多くは無いのだが。
それでもレオロという実力者を見つけ出した男は、レオロを突き出す事をしなかったのである。
レオロは最初、目の前の男がレオロから情報を引き出す為に、レオロを生かそうとしていると考えたが、目の前で首を傾げている男を見ると、どうも頭痛がしてきた。
「じゃあ、俺に依頼か?」
「うん?違うぞ。」
暗殺者に依頼をする場合、暗殺者を見つける事が出来る特殊な技能を持つ者が暗殺者の前に現れる。
レオロは目の前の男をそう思いたかったが、その言葉を男自身に否定された。
「あんたは一体何なんだっ!!」
レオロは思わず叫んでいた。
何時も人好きするような笑顔を浮かべ、以外の感情を表に出さない事から冷静沈着、感情等無い等と直喩されるレオロが感情を露わにさせられた。
「言ったろ。俺は冒険者だって。」
男はまたその言葉を口にする。
「冒険者、リガロ=オーガイ様よ。」
自身を指しながら、名前を名乗り。
「お前さんをスカウトするぜ。」
レオロを指しながら、一層の笑顔を見せたのだった。
「いやいや、何言っちゃってんの?」
「変か?」
レオロのツッコミに真顔で首を掲げていた。
後の冒険者ギルドの長と副長の出会いであった。
レオロはこの後、リガロの手を取り冒険者ギルドを立ち上げることになるが、自由奔放を絵に書いたようなリガロは、ギルドの業務を放り投げて冒険の旅に出る。
冒険者ギルドの業務を一手に引き受ける形となったレオロは本格的に暗殺者稼業を引退することとなった。
レオロの引退は思いの外すんなりと受け入れられる。
レオロが行ってきた事実を盾に取った事と、リガロの意外な人脈が役に立っていた。
「せめて、1年に一回ぐらいは戻ってきてほしかったですよ。」
「ふはははは、すまんな。だが俺は『冒険者』だぜ。お前がギルド長になっちまってよかったのに。」
「なら、貴方風に言うのなら。『私は冒険者ギルドの副ギルド長ですよ』。」
リガロの最後を看取ったレオロの言葉だった。
レオロは自身にとって新しい物を見つけるのが使命という冒険者の思いを然りと受け継いでいた。
レオロの言葉を聞いたリガロの最後は、笑顔だったそうだ。
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