83 レオロの実力、苦戦のシャラン。
レオロはかつて腕を通していた装具を見つめる。
まさか、現役を引退してからこれを着ることになるとは思ってもみなかった。
一人になり冷静になって考えてみたが、やはりシャランを冒険者として認めるわけにはいかなかった。
シャランの実力検査を通すわけにはいかない。
今は、この冒険者ギルドにとって大事な時であり、もしシャランの件で王宮に難癖を付けられる訳にはいかなかった。
だから、全力で相対することに決めたのだ。
冒険者の人間は元々戦闘職であり、浮浪者や荒くれ者であり、その為大なり小なり腕に覚えのある者達が集まる。
当然、一寸したことで争いに発展することもあって、ギルド職員にも相応の腕前は要求された。
副ギルド長という役職に就いているレオロは、かつての経験から、この冒険者ギルド随一の実力者でもあった。
「始めましょうか。」
「ああ。」
入ってきたシャランにレオロは声を掛ける。
シャランは小さく頷くと、背負っていたバスターソードを抜き放った。
それに呼応するように、レオロもまた腰の横、左右に下げていた短刀二本を抜き放った。
一気に踏み込んだシャランは、バスターソードを振り下ろそうとして、しかし瞬間二歩後ろに下がった。
「おや、残念。」
銀の煌めきが左右に凪いでいた。
シャランより更に早くシャランの方へと踏み込んだレオロが、その短刀を交差するように振るったのだ。
レオロの落ち着いた呟きに、冷や汗が流れる。
なんとも、飄々としておりシャランはやりにくさを感じていた。
「だが、見えてはいるな。」
「おや、見えましたか。」
シャランの呟きに、レオロは張り付けたような笑顔のまま、言葉を返してきた。
その意味に気付き、シャランは凍りつくように動きを止めた。
だが、自然に笑みが漏れてくる。
それは、獣が獲物を見つけたような獰猛な笑みであった。
最初はヒョロッとした優男だと思ったが、目の前の相手は相当な使い手と認識を改めたのだった。
「行くぞっ!」
「いつでもどうぞ。」
シャランは吠える様にして声をだし、バスターソードを突くように持つと、下がった分を踏み込む。
更に、そのまま上へとかちあげた。
当然、レオロを付きを後ろへと下がることで避け、更にかちあげられたバスターソードの下を潜るようにして、踏み込んでくる。
シャランは、そのまま振り上げた状態のバスターソードを振り下ろした。
「おっ、とっと。危ない危ない。」
だが、レオロは右に避けては、後ろに飛んで距離を開けた。
「ふむ、掠るだけだったか。」
「何を言って…、むっ。」
シャランの言葉に、疑問の声を上げるレオロだったが、次の瞬間着ていた黒い装束の一部が、ハラリと切れた。
シャランの一撃が掠っていたのだった。
「これは、これは。今から本気でやらしてもらいますよ。」
レオロはそう言うと、その姿を消した。
いや、消えた様に見える程、高速で動いているだけだ。
シャランは、突然背筋に氷を入れられたかのような錯覚に陥る。
直感に従い、前に前転するように跳ぶ。
シャランの首のあった場所に銀線が煌めいた。
そのまま、起き上がり更に後ろに飛び退る。
だが、直感がまた囁いた。
その直感に従いバスターソードを掲げると、ギィンと金属同士がぶつかった甲高い音が鳴った。
「ぐっ…、なんて速さだ。」
バスターソードを構えたまま、シャランは身体強化の魔法の威力を上げる。
レオロの姿が辛うじて見えるようになった。
レオロが、自身の方へと掛けてくるのを見たシャランは、それに合わせてバスターソードを突きだす。
だが、レオロは、軽く右側に避けて、シャランの方へと踏み込んできた。
そして、レオロは吹き飛ばされていた。
レオロの速度に合わせて、バスターソードの影から拳を突き出したため、カウンターの要領でレオロが吹き飛んだのだ。
「あいたたた、まさかカウンターを狙ってくるとは。」
「そう易々と負ける訳にはいかないのでな。」
だが、レオロは殴られた頬を摩りながら立ち上がる。
殆どダメージは見られない。
当たる瞬間、後ろに飛んで威力を無くしたのだろう。
だがシャランは、動じてもいなかった。
ダメージなど二の次で、ただ仕切りなおす間合いが欲しかったからだ。
少なくとも、この思惑は当たり、距離が離れていた。
「もうやめません、時間の無駄ですよ。」
「…まだ、判らんさ。」
シャランはレオロの降伏勧告に強がりで答え、バスターソードを構える。
魔力はまだ互いに尽きない。
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