5 勇者の帰還、そして騒動の予感。
勇者は魔王(雑魚)の死に際の言葉が気になっていた。
『本当の魔王は最初の町の宿屋に居る。』最後にそう言い残して光となっていった。魔王との決着がついた、玉座の間。怪我を負い、体力の限界にきていた勇者は体を休めていた。何もすることなく、思考だけが鮮明だった。
「げふっ。」「ぐはっ。」「ぐげっ。」「がはっ。」「ぎぃっ。」「ごはっ。」
後ろで魔王が苦悶の表情で何度も光となっていく光景を無理やり追い出す。
「これからどうするの?」
「どうしようか?」
聖僧(女)の言葉に曖昧に答える勇者。
「倒しに行くんだろ。本当の魔王を、よ。」
「当然だろ。」
格闘家の言葉に力を込めて返す。
「まずは体を休めることですね。」
「ああ、勿論だ。」
魔法研究者の言葉に、しっかりと頷いた。
「夜が明けたら、移動魔法で飛ぶぞ。」
三人は勇者の言葉にしっかりと頷いた。
「行くぞ。」
一言だけ声を掛け、移動魔法を唱える勇者。移動魔法は勇者という職業の者だけが使える特別な魔法だ。光を纏い、浮かび上がるも光が弾け目の前の景色が変わらない。
「なっ、なんだと!!」
「くっくっくっ、知らなかったのか?この城では移動魔法は使えない。ぐはっ。」
驚愕する勇者に、魔王が理由を説明する。
「普通に城から出て、移動魔法使えばいいだけじゃない?」
「言うな。それを言うんじゃない。様式美というものを考えろっ!!がふっ。」
聖僧(女)が一つの案を出せば、魔王が突っ込みつつ却下をする。
「せめて、力をあわせて、力と知能で乗り越えるんだなぁ。げはははははっ、ぎゃっ。」
そんな注文も付けてきた。
「ああ、もう、めんどくさい。こうすればいいのよ。」
聖僧(女)はそう叫び、魔法研究者と格闘家と共に壁に向かって歩き出した。そして、魔法を唱える。格闘家は腕に魔力を通し、構えを取った。
「ぶっ壊れろぉぉぉおおお…。」
「って、おおおおい。なんてことしてくれやがりますか、お前はっ!!」
魔王城の最上階、玉座の間に二つ目の外への通路が出来上がった。
「さぁ、飛び降りるわよ。勇者さん、移動魔法よろしくぅ!」
「いいのかなぁ?」
聖僧(女)のお気楽な様子に、疑問に思う勇者。
「あら、いいのよ。だって………。」
「魔法は知能補正だもの。」
「そう言う意味じゃなぁーーーい。ぐげっ。」
魔王の突っ込みが炸裂した。
空は青く澄み渡り、白い雲が流れていく。木々は風に揺れ、堀代わりの人工の川の中を魚の稚魚が泳いでいく。季節は春。花々が咲き乱れ、動物達も活発に活動し始めた。
余りに平和な光景に、先ほどまでとのギャップに戸惑う勇者達。
「ほんとに、居るのかな。」
「取り合えず、行ってみるしかないな。」
南門を潜ろうとする勇者。
「ちょっ、どちらさんだい?通行所は持っているんだろうな?」
門番に止められてしまった。
「ここか、宿屋《魔王城》。まんまな名前だなぁ。」
ここに本当の魔王が居る。そう思うと、禍々しい空気を纏っているようにも思える。瞬間、悲鳴が聞こえた。
「やっ、やめて。いやぁ――――――――。」
中で何か騒動が起きている。慌てて扉を開けようとすると、扉の方から開き、中から色白で深紅の瞳をした細身の美人が跳び出してきた。
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