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第2話 変わりゆく日常

貧民街の朝は、昨日と同じ顔をしている。

リゼはいつもと同じ場所に布を広げた。


『手相、見ます。少しだけ当たります』


いつもの言葉。

でも、少しだけ違和感がある。


(昨日のあれ……なんだったんだろう)


掌を見た瞬間の感覚。

今までにみたことのない

“壊れていた線”

思い出すだけで、指先がわずかに冷える。


「ねぇ、占ってくれる?」

いつも通りの客の声に、リゼは顔を上げる。


『はい、どうぞ』


手を取る。

掌の運命を見る。

いつもの流れ。


(……普通だ)


でも、なぜか安心しきれない。


仕事は問題なく終わった。

いつも通り。

なのに、頭のどこかが落ち着かない。


(あの人、また来るのかな……)


そう思った瞬間。


「掌紋師リゼ」


突然、自分の名が聞こえた。


『……え?』


掌の運命を見ることができるものを

【掌紋師】(しょうもんし)と呼ぶ。


普段は呼ばれない肩書きに

戸惑っている暇がないほど感じる

この空気の重さ。

昨日の男と同じ、黒い騎士服。


その男は淡々と言った。


「黒獅子騎士団所属、ハリス・インフィールドと申します。王太子殿下の勅命により、王宮までご同行願いたい」


一瞬、理解が遅れる。


『……王太子からの勅命?』


ハリスは続ける。


「拒否権はございません。こちらへ。」


『ふぅ…仕方ないですね。わかりました。』


ハリスがリゼを馬車まで誘導する。


(昨日の人も黒獅子騎士団の人だったよね…)


そのときだった。


「来たか。」


低い声。


リゼの視線の先。

王太子の紋章が刻まれた馬車の前に立つ黒い騎士。

昨日と同じ男。


ただ、今日は少しだけ違って見えた。


「団長。掌紋師リゼ殿をお連れしました。」


「あぁ。」


『(え?団長?!たしかに只者ではないとはおもっていたけれど…)』


そのときにはじめて彼が

黒獅子騎士団団長

【ユリウス・グランシュヴァリエ】

だと気づいた。


騎士団の名である【黒獅子】を彷彿とさせる

「濡れ羽色の艶やかな髪」

「青みがかった薄灰色の切れ長の瞳」

品行方正・容姿端麗を絵に書いたような人物で

彼に思いを寄せない淑女はいないとまで言われる。


そんな彼はリゼに視線を向けたまま

1歩近づいた。


「行くぞ」


『え、ちょっ…』


(ほんとになんなんだ、この人)


話終わる前にひかれた腕。

痛くは無い。

でも離れられない力。


リゼは馬車に乗り込む。


『…えっ』

(なんで横に?!近い…!)


ユリウスの横に座らされそうになるが、

あわてて向かいの席に座る。


既に離れているはずの彼の手のひらの熱が

腕に微かに残っているように感じた。

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