第1話 見えない掌
薄汚れた路地裏に、小さな布を敷いて少女リゼは座っていた。
『手相、見ますよ。未来、ちょっとだけ当たります』
貧民街では、占いは生きるための小銭稼ぎだ。
信じる者は少ない。それでも時々、人は“何かに縋りたくなる”。
この世界では、運命は“線として刻まれるもの”だ。
誰もがうっすらとそう信じている。
「未来、見てもらえるかしら?」
リゼは訪れた女の掌をそっと取る。
『……うん。あなたは三日後、小さな幸運があります』
『当たるかどうかは、その人次第だけどね』
軽く笑って手を離した。
──そして三日後。
その女性は、ずっと探していたものが“思いがけない場所から戻ってきた”と静かに話題になっていた。
(……当たった)
リゼは小さく息をつく。
当たる。見える。外れない。
だからこそ、ここで占い師を続けている。
そのときだった。
「……ここか噂の占い師がいるというのは。」
女性が去った路地の影から、低い声が落ちる。
黒い騎士服の男。
ただの兵ではない。
その気配だけで、周囲の空気がわずかに張り詰める
王国でも限られた者しか許されない紋章
――黒獅子騎士団。
(現れた瞬間から一気に空気が変わったわ…)
「見てくれないか。」
『あ、はい。では手を……』
リゼがその手に触れた瞬間、世界がわずかに歪んだ。
(……あれ?)
どんな人間の掌にも必ずあるはずの“流れ”。
生まれ、選び、死へ向かう線。
それが “ない“
いや、途切れている。
まるで途中から “誰かに書き換えられた” ように。
リゼは無意識に息を止める。
「何か見えたか」
低い声。
その目は揺れていない。ただ真っ直ぐにこちらを見ている。
(この人……)
リゼは確信する。
読めない。
見えない。
いや――
壊れている。
「……お前には、何が見えている」
男は静かに問う。
その掌には、本来あるはずの“運命の線”が、歪にねじれていた。
まるで誰かに――書き換えられたかのように…




