最後の平和
149話目です。
朝は平等に訪れる。
賑やかな街も廃れた集落も、
窓から見えるこの碧天はどこも同じだ。
部屋が妙に広い。
仲間たちはもう誰一人そこには居なかった。
「……寝坊した」
オリバーは、それでもゆっくり支度をし、1階へと向かった。
「おはよう」
「大将、やっと起きたか!」
「珍しいな!」
「体調でも悪いの?」
「いや、いつも通りだよ。
久しぶりにぐっすり眠れただけ」
「こんな所でよくぐっすり眠れるわね…」
「あれ?おじいさんは?」
「私が起きた頃にはもういませんでした。
朝ごはんの支度だけしてくれていたみたいで…」
「そっか…」
(お礼言いたかったんだけどな)
「大将、どうする?向かうか?」
「そうだね。一応おじいさんを探してから向かおう。
みんなは町の外で待ってて」
「わかった!早く来いよ!
まだ朝飯も食ってねーんだからな!」
「ならば、我らは先に向かっておくとするか」
仲間と再び別れたオリバーは、
用意された食事をゆっくりと食べながら、
昨夜のことを思い出していた。
お主らが神罰のことを軽く考えておるわけではない。
ワシもお主らも神罰を受け入れられただけだ。
ただ、それだけだ。
それだけで、お主らは強い。
胸を張って旅を続けなさい。
老人のその言葉が、オリバーの背中を強く押していた。
「さて、ちょっと探してみるか…」
食事を終えたオリバーは、静かに家を出た。
お世話になった老人の家に一礼をしようと振り返った時、
強烈な違和感を覚えた。
家の中はあれだけ綺麗だったのに、外壁は汚れと蔦だらけだった。
(昨日、こんなだったっけ…?)
蔦は乾ききり、絡みついた蝶番は赤錆で固着している。
まるで今もまだ、長い年月を閉じ込めているかのように。
(……これは…どういう……)
町を見渡しても老人の姿はない。
昨日という1日そのものがなかったかのように静かだった。
『ごめん、お待たせ』
「…ん?オリバー、なんかあったか?」
『いや、何も。さ、行こう!』
オリバーは、老人やあの家のことを仲間には聞けず、
心の内にしまい込んだ。
何となく、皆が忘れてしまっているような気がしたからだ。
あの町での記憶が偽物だったのではないかと、
自らを疑ってしまいそうになる程に、皆は明るく前に進んでいた。
「お!そろそろだな!
この辺りは見覚えがある」
「クラウンも挑んだことがあるんですか?」
「いや、挑んだことはねぇよ。
昔な…この辺りで大道芸の一団を率いてたんだ。
ここに挑む奴が多くてよ、そりゃあよく稼げたもんだ」
「クラウンって本当に大道芸人だったの!?」
「なんだヒルダの嬢ちゃん。
そんな驚くこたぁねぇだろう?
ジャグリングも魔法も芸事としてやってんだから」
「それがそのまま戦闘スタイルってなんかカッコいいな!」
「ガッツはなかなかセンスがあるじゃねぇか」
「でも、昔ってことはやめちゃったのよね…?」
「……まぁな。
みーんな…死んじまったからな…。
俺の寿命についてこれねぇで死んだやつもいたが…
最後の仲間は全員……」
クラウンは拳を強く握りしめていた。
「ふむ。それはもしや…?」
「あぁ、ジラトの旦那。
さすがだぜ、そこで言葉を切ってくれるなんてな…。
ま、それもこれも終わったことだ。
今は、違う仲間がいる…。お前らだ。
そんな仲間の前で未練なんて…カッコ悪ぃだろ」
『いや、カッコいいよ。
話してくれてありがとね』
「大将…アンタはやっぱシビれるぜ…!」
「あ、…あれではないですか?」
「やった!もう着いたのね!」
いつも文句を言うヒルダも長旅に慣れてきていた。
"もう着いた"という割には実に半日以上は歩いている。
彼女もまた自覚せず、静かに成長しているのだ。
「いよいよだな!
次はどんな迷宮なんだろうな!」
ガッツは目を輝かせていた。
今もまだ、ちゃんと意識がある状態で、
仲間と共に迷宮に挑めることに喜びを感じているのだ。
「俺は初めてだからな!
ちゃんとサポートしてくれよ?
な!ネフィアちゃん!」
「私ですか!?」
『……ここだね』
千年竜は口を開けていた。
乾いた木々や突き出た岩が、
まるで竜の頭を象っているようだった。
"千年竜の背骨"
この古代迷宮が彼らにどんな試練を与えるかはまだ誰も知らない。
ただ一つ言えることは、
これが彼らの"最後の平和"ということだけだ。
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