13.莉緒の特性
事情聴取後、事務所に戻ると立花さんの周りには女性社員が集まって、慰めたり憤って文句を言ったりして姦しくしていたが、課長が一言で締めて皆業務に戻った。
その後は、何事も無く順調に業務を進め、終業時間を迎えた。帰宅準備をしていると、スマホにメッセージがきた。確認すると莉緒からだった。
『考察がある程度纏まりました。これから家に行きます。』
おい、急だな。
『これから会社を出る。メシは?』
『お願いします。』
『買い物して帰るから、先に着いたらご飯だけ仕掛けておいてくれ。鍵は玄関の横の鉢植えの下にある。分からなければ連絡しろ。』
『大丈夫です。真由ちゃんに聞いて把握してます。』
なんでお前、俺ん家の鍵の在処把握してんの?怖いんだけど・・・ま、まぁいいか。
『よろ』
さて、急遽マトモな夕飯を作らなければならなくなった。冷蔵庫に何が残っていたか思い出す。冷凍しておいた挽肉があった。貰った玉ねぎもまだ残っていたか。ハンバーグでも作るか。付け合わせ用に安くなっている野菜を何種類か買って帰るか。
電車で実家に寄って、車に乗り換え、帰り掛けにスーパーに寄って安売りしていたキャベツとにんじんを買って帰る。
家に着くと、莉緒の車が駐車スペースに停まっていた。莉緒の車の隣に車を停める。ウチは相当な田舎なので土地だけは余っている。
家に入りリビングに向かうと、ボロボロの莉緒がデスクトップPCを組み立てようとしていた。
「ストーップ!お前何しようとしてるの?てか、なんでそんなボロボロなの?お前、2日前から寝てるか?風呂は?」
「そんな事はどうでもいいので、コレを組み立ていい所を教えて下さい。」
あかん。完全にコイツのダメな所が全開になっている。コイツは熱中すると、周りが見えなくなって寝食も忘れて没頭してしまう癖がある。
以前も、大学生時代にスタートアップ企業(今の莉緒の会社)の話が出た際も、やりたい事を企画書として出し合う際に、妄想が膨らみすぎて、6日間、寝食をほぼ取らずに没頭して、企画書をまとめ上げてたらしい。
その時俺は、既に卒業して就職し、会社の本社がある大阪にいたのだが、サークルの後輩から連絡があり、その状況が伝えられた。
何故、俺に連絡したのか確認したら、
「俺らじゃ話を聞きません。アイツが1番懐いていた先輩しか止められません。このままじゃ体壊しちゃいます。」
と、泣きが入っていた。流石に放っておけなくて、週末でもあったので、新幹線で帰ってきて止めた事があった。
今の状態がそれとダブっている。
「ダメだ。風呂入ってメシ食って仮眠取らないと話は聞かん。パソコンもお預けだ。」
「そ、そんな殺生なぁ。」
「風呂沸かしてくるから、それまでにそれは片付けておけよ。風呂入っている間に飯は作っておくから、上がったらメシだ。湯船で寝るなよ。寝不足で体が温まったら眠くなるだろうが、マジで死ぬぞ。」
「き、着替えがありません。お風呂キライ。」
「子供みたいな事言うな。俺のおニューのトランクスやるよ。インナーとTシャツ、後は俺の高校の時のジャージでいいだろ。」
そう言って、俺は風呂場に行ってバスタブを軽くシャワーで濯いで、湯沸かしボタンを押す。
着替えとバスタオルを脱衣所の籠の上に置いて、リビングに戻る。莉緒はまだ、テーブルの前でウダウダしている。
「俺はメシ作るから、風呂が沸いたら入るように。ウダウダしてたら、今回の話はコレ以上進めない。返事は!」
「イエッ!サァー!」
ビシッと敬礼して、パソコンを片付け始める莉緒。その様子を苦笑しながら見つつ、キッチンに向かい晩御飯の用意を始める。
挽肉を冷凍庫から取り出し、レンジで解凍する。その間に玉ねぎをみじん切りにして、フライパンで飴色になるまで炒めて、平皿に広げて粗熱を取る。
粗熱を取っている間に、挽肉と卵、パン粉をジップロックに入れて、塩胡椒を振って、ジップして揉みながら混ぜ合わせる。粗熱が取れた玉ねぎを投入して、更に混ぜ合わせて4つに小分けする。
オリーブオイルをひいたフライパンを熱して、小分けにした具を俵状にして敷き詰める。両面が焼き色が付いたら、蓋をして弱火で3分蒸し焼きにして中まで火を通す。
この時に、輪切りにしたにんじんも蒸し焼きにする。蒸し焼きにしている間に、キャベツを千切りにして皿に盛り、ハンバーグとにんじんを盛る。
使ったフライパンでソースを作ろう。中濃ソースと醤油、ケチャップを適量入れて、砂糖と塩で味を整えて弱火で熱してとろみが出たら火を止めて、ハンバーグに掛ける。
スープはインスタントでいいだろう。お湯を沸かしながら時計をみると、30分程で出来たが莉緒がまだ出てきていない。
まさかと思い、脱衣所のドアをノックするが、返事が無いので躊躇しつつも、声を掛けてドアを開け風呂場に声を掛ける。
「おい、大丈夫か?寝たら死ぬぞ。」
中から慌てたような音がし、
「だ、大丈夫です。そろそろ出ます。あ、危なかったー。」
と、聞こえてきた。マジで大丈夫か?
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