31.小さな決意
俺の心の絶叫を無視して、2人は明日の準備を進めている。俺も慌てて手伝いに加わり、荷物を纏めていく。
と、言っても野営をするわけでは無いので、1泊2日の着替えを用意するだけだ。俺の分の替えの下着や服も用意してあった。なんか申し訳ない。ちゃんと働いて返そう。
あっという間に準備を終わらせて、俺は帰宅しても良いとの事なので、店を後にする事にした。そろそろ午後の4の鐘が鳴る時間だろうか。
2人に辞去の挨拶をして、店を出た。ランニングをしながら、院に向かう。健脚スキルを意識しながら走ると、少しいつもより速く走れている様な気がする。気のせいか?あと、魔力循環を行なっているからか、体が以前より思い通りに動く気がする。
1つ1つのフォームを確認しながら走っていると、明らかに一昨日より早く院に着いた。疲れも殆ど無い。どっちの効果か明確では無いが、これから走る時は、どちらも意識して走る事にしよう。
門を通り、庭の方を見る。パルムの木によじ登っている人影が見える。
「シンシアお姉ちゃん、何してるの?」
「キャッ!え??あーー!」
ドン!
俺の声に驚いて手を離してしまい、木から落ちて、お尻を打ち付けるシンシア。
「いたた・・・」
「ご、ごめんなさい。急に声を掛けて。」
「う、うん。だ、大丈夫よ。ちょっとビックリしただけだから。」
「パルム取ろうとしてたの?」
「そうそう。今朝も皆喜んでいたからいっぱいあげようかと思って。」
見ると、シンシアの座っている横に、籠一杯のパルムが置いてあった。いや、こんなに魔力持つのか?
「お姉ちゃん、魔力足りる?」
「あ、た、足りるかなぁ・・・。リノ手伝ってくれる?」
「う、うん。あ、それじゃ出来上がった乾燥パルム、ちょっと貰って良いかな?明日、ダルトンさんに試作品として見て貰いたいんだ。」
「ええ、これだけあれば全然足りるから、持って行って構わないわよ。そう言えば、リノ、明日はダルトンさんのお仕事で出掛けるのよね。何時に出発なの?」
「1の鐘には迎えに来るって。」
「あら、意外と早いのね。起きれるー?」
揶揄い気味に聞いてくるシンシア。
「が、頑張ります。」
「クスクス。冗談よ。私いつも早いから明日は起こしてあげるわ。」
「本当に!ありがとう。シンシアお姉ちゃん。」
「さあ、それじゃ、早速、夕飯の準備に取り掛かりましょう!今日は沢山の食材を頂いたから、忙しくなるわよー。腕が鳴るわ。」
「僕もお手伝いするね。」
「ありがと。じゃあビシビシこき使っちゃおうかなー。」
「お、お手柔らかにお願いします。」
「クスクス。冗談よ。」
落とされた事、怒ってる?結構、根に持つタイプかな?
その後、パルムや他の野菜などの皮を剥いたり、火を起こしたりと、俺が手伝える事を手伝った。やはり魔力循環を使っていると、普段より体の動かし方がスムーズで、ナイフでの皮剥きも前回より上手く出来た気がする。
夕飯準備をしていると、働きに出ていた子供達も帰ってきて、料理を手伝ったり、小さい子の面倒をみたりしている。
いつも思うが、ここの子供達偉すぎやしないかね。誰に何も言われなくても、自分が出来る事を率先してやっている。同じ年頃の子供が、学校に行ったり、友達と遊んだりしている時間を、生きる為に仕事をしている。
地球で、親によって子の境遇に差が出る事を、ソーシャルゲームのガチャに準えて「親ガチャ」と呼び、一時期流行った事があった。
だが、その言葉を流行らせて、ネット界隈で不幸自慢をしていた若者達も、ここの子供達程不幸では無かったろう。なにせ、この子達は、そのガチャすら回させて貰っていないのだから。
バーバラを、この院から排斥した後には少しはまともな生活が出来る様になるだろう。だが、俺がもっと稼いで、今まで苦労してきた分を取り戻させてやる。
いつもより、豪華な食事に興奮している子供達を見て、俺は決意した。
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