29.雇用契約の結果
アルルが、待機させていた馬車を呼んで来て、その馬車にダルトンと2人乗り込んだ。リグラ運輸の従業員さん達も、幌馬車に乗り込もうとしているが、年少組の子供達が、泣いて手を離さないので、なかなか乗り込めずにいた。
君達、大分、懐かれたね。
シンシアが間に入り、何とか子供達を引き離して、乗り込む事が出来たようだ。
馬車が、大通りに出てダルトン商店に向けて進む。
「何かあったんですか?院長が物凄い笑顔で、怖かったのですが。」
「いやー、あの人、やり手だねー。何も知らなければ、大分搾り取られるところだったよ。言葉巧みに、寄付金をせしめようとしてきてね。躱わすのに苦労したよ。あ、あの笑顔だったのは、リノ君の雇用契約が、向こうの思った以上の額になったからだと思うよ。」
「えっ!?」
「僕は、正当に評価した値段を言っただけなんだけどね。君の能力は、大人と同等以上のものがあると思っているから。」
「それって・・・」
「うん、1日15,000ダリ。」
「「え、えぇーー!!」」
「うわっ!2人共、急に大声出さないでよ。アルルには申し訳ないけど、僕はリノ君をそれだけ払っても、手に入れたいと思ってるんだよ。」
「いえ、僕もリノの事は認めているので、値段には納得です。急な事に驚きましたが。」
「あ、あの、僕はそんな凄くないです。商いのルールも、相場も全然知らないし。」
「そんなものは、これから追々覚えていけば良いのさ。やっぱり君を選んで正解だね。」
「??」
「君の計算能力も、もちろん凄い力だけど、それよりも、自分の力を正当に評価出来る聡明さと、素直に認める謙虚さは君ぐらいの年頃の子供には難しいものさ。ほとんどの子は、自分を大きく見せようと必死さ。」
「でも、そんな値段を提示したら院長に変に思われたのでは?」
「もちろん、最初は訝しんできたさ。でも、裏取引を持ちかけたら、コロっと態度を変えてきたよ。」
「裏取引?」
「市の福祉課から出ている院に掛かる経費の内、食料と備品の購入先を全てダルトン商店に推薦して下さいってね。」
「でも、それだと院長が着服していたお金が減りませんか。」
「そう。院長は、福祉課の担当者と共謀して、院に掛かる経費を全て受け取り、必要最低限の経費をシンシア嬢に渡してその差額を着服している。その事をオブラートに包まずにカマをかけたら、あの笑顔になっちゃったよ。何が目的だってね。
だから、「今のやり方では気付く人には気づかれますよ。」って、忠告して、「直接経費を受け取るのでは無く、仲介者を挟んで金の流れを迂回させましょう。リノ君の給料とは他に、ウチが院の取引で出た利益の半分も、キックバックしますよ。今までより、院長の受け取るお金は減るかもしれませんが、安全と安心への経費と思って下さい。」って、アドバイスしたんだよ。」
「なんで、怪しまれるような危ない橋を渡ったのですか?何もしなくても、2〜3日後には告発されるって・・・。」
「話をしていて、あー、この人は、本当に子供を喰い物にする事しか考えていないんだな、って、思ったら、段々ムカついてきてね。ギャフンと言わせたくなったんだ。でも、ウチの商店から購入すれば、皆が少しでも多く、食べる事が出来るだろう?福祉課も、流石に第三者の業者に誤魔化した経費は払えないからね。ウチは怪しまれるけど、院長の手取りが減って、皆はご飯がいっぱい食べれれば、それで良いかなって思ったのさ。」
ギャ、ギャフンって。
でも、危ない橋を渡ってまで、子供達の事を考えてくれたのか。嬉しいな。
「皆の為に、ありがとうございます。」
「さあ、そろそろ店に着く。明日の準備をしようか。」
話が終わる頃ダルトン商店の前に馬車が停まった。御者さんにお礼を言って、3人で店に入る。リグラ運輸の人達も入ってきて奥のドアを抜けていく。
「では、ダルトンさん、明日運ぶ品物は今から積んでしまいますね。」
「はい、入って左手のドアの手前に荷札を付けておきましたので、そちらを積み込んでください。」
「承知しました。こちらが預かり票になります。一緒に行くのであまり意味はありませんが。」
「確かに受け取りました。商取引を成功させる原則は「親しき中にも礼儀あり」です。こういった事はしっかりとやるに越したことはないですよ。」
「そうですね。積み込みも終わったようですので、私どもはこれで。また、明日。」
「ありがとうございました。明日も、よろしくお願いします。」
積み込みを、あっという間に終わらせたリグラ運輸の面々は、颯爽と立ち去って行った。
無駄にカッコいい!
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