20.帰宅
すっかり話し込んでしまい、ダルトン商店を出る頃には、5の鐘がなった後であり、日が沈み始めていた。
急ぎ足で孤児院に向かったが、門の手前に着く頃には、すっかり日が暮れていた。
門のところに小さな人影が見える。
「あっ!リノ!あっそーい!」
ソフィーだった。俺が遅いから門で待っていてくれた様だ。
「仕事から帰って、部屋に行ったらリノいないし、シンシアに聞いたら、言伝に行っただけだからすぐ帰るわよって言ってたのに、こんなに遅いし心配したよ。」
「ごめんごめん。」
「帰ってきたら、門の前に、頭から逆さに刺さった男の人がいるし、みんなで変態だーって騒いでたら、シンシアが出てきて、警備隊呼びに行くし、その間に、その男の人が気がついたから、慌てて門の中に隠れてコッソリ覗いてたら、急に騒ぎ出して門の中に入って来ようとするし、慌てて逃げようとしたらなんかフラフラしてるの。だから、みんなで遠くから石投げつけて入って来ない様にしてたら、シンシアと警備隊の人が来て、男の人を連行して行ったの。危ない事しちゃダメって、怒られるし大変だったんだよ!」
「う、うん。本当に大変だったんだね。」
「それで、リノは何してたの?」
「うん、次の仕事の話をしてたら遅くなっちゃったんだ。」
「えっ!リノ新しい仕事するの?なんの仕事?どこ?いつから?」
矢継ぎ早に、質問しながら顔を近づけてくるソフィー。
「わっわっわっ!ソフィー近い!近い!順を追って話すから離れて!」
むー!と膨れっ面をしながら、渋々顔を離すソフィー。美少女の顔が、間近にきてドキドキしている俺。俺の精神だから、ドキドキだけで済んでるが、同年代だったら勘違いしちゃうぞ。無防備すぎだろ、ソフィー。
「明後日、ダルトン商店の店長が、院長と話をして、話が纏まれば、次の日から働く事になるかな。」
「あー、だからシンシアが、明日、明後日は仕事に出なくて、ここの大掃除って言ってたのかー。」
「ソフィー達に迷惑掛けちゃったかな?」
「ううん。仕事に行ってるお家の大奥様、すっごい意地悪だから、みんな行きたくないんだよ。あそこのメイドさんいつも悪口言ってるもん。」
「そっか。それなら良かった。」
「でも、この時期で良かったね。もう少し遅かったら、2日じゃ、庭掃除終わらなかったかもね。」
そう言って、2人で、門に面した庭を見る。
そこには、パルムという果樹が、敷地の塀沿いに、規則正しい間隔で植えられている。立派な枝ぶりで、パルムの実が、たわわに実っている。
食べ頃に成熟しているが、ここの子供達は絶対に手を付けない。いや、正確には、空腹に負けて一度は手を付けるが、余りの渋さに、二度と食べようと思わないのだ。
誰も手を付けないから、大量に実った実は熟して落ち、腐って臭いを発し出す。そうなると子供達、総出で掃除をするのがこの時期の風物詩となっている。
そんな手間なら、木を切れば良いと思うのだが、院長は、切る手間賃を惜しんで放置している。
リノも小さい頃に、あまりの空腹に、パルム食べてしまって渋さに悶絶した。その記憶を思い出し、顔をしかめるが、次の瞬間、俺の脳裏に電撃が走る。
急いで、手近なパルムの木に走り寄る。ソフィーが慌てて付いてきた。
「ど、どうしたの?急に走り出して。」
「うん、ちょっと待ってて。」
そう言って、俺は登りやすい場所を探して、木に登りだした。
「リノ、危ないよ!」
「だ、い、じょうぶ、よっとっ!」
1番近くの枝になった、パルムの実を、枝ごと千切り、確認する。
「やっぱり・・・」
そう呟いた瞬間、足をかけていた枝が、メキメキと音をたてて折れてしまった。
「うわっ!」
「きゃーー!」
強かにお尻を打ちつけ、グハッと変な声が出る。
「ほらー!だから危ないって言ったのにー!」
幸い、登った高さが低い位置だったので怪我は無かった。
左手でソフィーに大丈夫だと伝え、俺は右手の中にある実を見つめた。
「やっぱり、これ柿だ。」
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