37話
オリビアの体から2色の光が出る。
「これは…」
「治癒魔法と強化魔法を同時にかけた」
「またそんなことしたら、リーフが疲れるだろ」
「悪魔相手なんだから、出し惜しみなし。それに、オリバーと離れている間、僕も魔法使っても、疲れないくらい強くなったんだ」
ふふん、と得意げに笑う。
「そうだよなあ。ずっと噂は聞いていたぜ」
だから、そんなリーフを認めないあのパーティーに置いていく訳にはいかなかった。
「よく考えたら、私たちにもかけてもらえばよかったですわね」
カメリアたちは遠くで2人の様子を眺めている。
「普通にリーフいくつもの魔法かけてもびくともしないしね」
「でも、2人の勇者の力なら、悪魔くらい楽勝な気がしない?ラブ、愛の力だよ!」
セレストが手でハートマークを作る。
「しかし、もうあの人はオリバーってことでいいんだよね。追放とか色々あったけど、全然こじれてないじゃん」
「むしろ、ラブラブって感じ」
「さんざん落ち込んで、愚痴られた時間を返してほしいですわ!」
「本当にピンチな時は、私たちも参戦するけど、なんだかんだ大丈夫な気がするよ」
リーフとオリビアは剣を構える。
行くぞ、と心が通じ合うように、2人はうなずいた。
「勇者は俺のものだ」
オリビアたちの話が聞こえていなかったのか、狙ってくるのはオリビアだけだった。
もやが触手のように伸びてくる。
「オリバーに手を出すな」
凄んだ声で触手を数本まとめて、切り落とした。
ぎゃーと、痛みで叫び声が上がる。
「この部分はあの女じゃないでしょ」
「そうだな。もやの部分が多分悪魔だから、削っていけばジェイを取り戻せるかも」
今のオリビアは触手から逃げるのに集中して、まだ攻撃ができていない。
リーフが切っていっても、しばらくしたら別のところから生えてくるから。
「俺も反撃開始」
炎をまとった剣を振り落とした。
先ほどより大きな叫び声を上げる。
触手に焼け焦げたあとが残っている。
「やっぱり、オリバーの勇者の力だよ」
「いや、火が苦手な悪魔なんだろ。多分」
「そうことにしといてあげるよ」
リーフは剣と同時に魔法も使いだす。
「お前、本当に器用だよな」
「僕、オリバーの隣に立つために頑張ってきたからね」
戦いの最中にも関わらず、朗らかに話している。
「ジェイの意識なくてよかったね。目の前であんないちゃいちゃされたら、腹立つよ」
「もしかして、前のパーティーでもあんな感じでしたの?それで、オリバー様は無自覚?」
見学しているカメリアたちはじとっとした目で眺めていた。
「リーフ、いつものあれ!」
「分かった。勢いつけすぎないように気をつけて」
空中に手をかざすと、魔法陣が出てくる。
魔法陣に足をつけ、空中を跳んでいく。
「おらー!」
オリビアは悪魔の腕に向かって、剣を降り落とした。
叫び声とともに、腕は外れ、もやは消えていく。
「よし」
オリビアはガッツポーズをするが、空中の魔法陣は消えているため、地面に落下していく。
「受け身取らないと」
体勢を直そうとするが、その前にリーフがオリビアに向かって跳び、受け止める。
お姫様抱っこで。
「へ?」
オリビアは顔中が赤くなる。
「オリバーは相変わらず無茶するなー」
すっと、降り立つ。
「悪かったから、降ろしてくれ」
オリビアが腕の中で暴れる。
「はい、お姫様」
「もう俺が中に入っているの分かっているのに、そんな対応すんな、バカ!」
オリビアは降ろされたが、まだ顔の赤みが消えない。
「どうする?」
「さすがに時間かかりすぎだよね」
「一撃くらいの体力はありますし、ちょっと短縮させましょう。これ以上彼らに付き合っていたら、ダンジョンのモンスターが復活する時間がやってきますし」
カナリーが右足に弾丸を打ち込み、カメリアが左足を拳か蹴りで攻撃。
残りの左腕をセレストが魔法を降らして、消した。
顔と胴体だけが残った。
「さすがにあの悪魔も再生する力はありませんわね」
「つー訳で、さっさとやれ」
「イェッサー…」
時間かかりすぎて、キレているカナリーにオリビアは怯えている。
「まだだ。勇者の魂さえ手にしたら、俺はまた蘇えることができる」
「お前もしつこいなあ」
剣を上に掲げる。
白い光が周りを照らしているが、オリビアは気づいた様子がない。
「もう、消えろよ」
その剣を悪魔に向かって、振り下ろした。
もやの中からジェイが出てくる。
もやは空気中に漂い、次第に消えていく。
ジェイの懐から魔導書が落ちてくる。
「これが悪魔の源か」
オリビアが拾い上げようとするが、ジェイが手元に戻していく。
「ジェイ、意識があったのかよ」
「あの悪魔は失敗だったけど、これさえあればオリバー様はまた蘇らせる方法が見つかるわ。そして、オリバー様を私のものに…」
ぐさり、と魔導書に剣が刺さる。
剣を見上げていくと、リーフが突き刺していた。
「あんた、何てことすんのよ!」
「そうだ!城か教会のものなんだから、返さないと」
「こんなのがあったから、オリバーや僕らが狙われたんでしょ。だったら、いらないよ」
穴が空いたところからボロボロと魔導書が消えていく。
「それに、オリバーはここにいるよ」
剣を鞘に片づける。
「は?どういうこと?」
「まだ分からないなら、いいや。オリバーは僕のものってこと」
そう言うと、ジェイはガクッと意識を失う。
「これ以上何かされたら面倒だから、僕の魔法で眠らせた。しばらくはぐっすりだよ」
「さっき、ジェイと話していたけど、何話していたんだ?ここからじゃ、聞こえなくて」
「何でもない。それより、早く帰ろう。僕らの家に」