第一話のその三
「…………どう、可愛い、でしょ?」
現在、王様と王妃様と側妃様と共に、プライベートスペースにて謁見中。
僕ことヴァレッタはエミリにどちゃくそ可愛くしてもらった。エミリ曰く「最後の日に食べたいのは貴女」的コーディネートらしい。意味は全くわからないが、美しく可愛いのは確かだった。
「うむ」
「うぼぁぁあああああああ!ヴァレッタちゃん尊っ!ヤバっ!」
「本当ですねパトリシア様!ヴァレッタさん、本当にお可愛いです!」
僕の見事なカーテンシーに、賛辞を下さる御三方。僕は女装して夜会に潜入し、貴族相手の市場調査を良くしてるので、女性の礼儀作法は一通り納めている。
ウチの商会は貴族女性の振る舞いができる人材がほぼ皆無だ。基本的に男臭い職場で、女性も一定数いるのだが、男顔負けな猛者しかいないので、そういう調査はやはり美しき僕がやるのだ。まさかそのキャリアがそのまま役立つとは思わなんだなぁ。
「ふふふふひ、いひひひひ、ヴァレッタしゃま、やばぁ、可愛すぎぃ」
僕の背後にいるエミリの呟きの湿度が高い。やばいのはお前だ。やばいのはお前なのだ。
「…………ヴァレット改め、ヴァレッタです、以後、お見知り置き、ください、ね」
ね、のタイミングでウィンクをキメてみる。
「うむ」
「うひゃああああああああ!脳が、破壊されるううううう!!??」
「まぁ、本当に愛らしいわぁ」
ちなみに。
ここにおられる、エミリと似たノリのお方が王妃パトリシア様。
その隣の柔らかで可愛らしいお方が側妃ロザンナ様。
ついでに王様の名前はガイノス様だ。
側妃ロザンナ様は子爵家出身で、元パトリシア様の侍女。
王様との二人目がどうしても出来なくて、パトリシア様が側室にと推挙したらしい。ロザンナ様はパトリシア様と同じく、ガイノス王と同い年の王立学園同級生。親交もあり生まれの子爵家も歴史が長い良家だったことで、縁談がまとまったと聞いている。
正室と側室の力関係は明確で関係も良好、我が国は堅実にまとまっている。
そういった意味でも、王弟に芽は無い。
「して、余に願い事があると聞いたが?」
「…………はい、シルファリオ家としてのお願い、と取って頂いて、構いません」
シルファリオ家の、との言に、場の空気が引き締まった。
さっきまでおふざけ全開であった王妃様も一瞬でシリアス顔になっている。
世界トップレベルの商会たる我が家の意向というのはそれだけの物なのだ。
さて。
この時点で、ここまでの経過は説明している。
女体化したこと。
女体化は神罰であるのだが種別的には祝福であり、異端認定はされないこと。
学園在学中に婚約者を作らねば、ペナルティとして失明の上四肢欠損すること。
そして本件の祝福が、どうやら有史以来初の最高神様から施されたものであること。
これらの情報は、おそらく神殿からも伝わっているだろうと思うので、あくまで確認及び王家側の裏取りのために説明した。
その上で、僕には王家側に聞き入れてもらいたいことがあった。
本当のところシルファリオ家の意向というのは嘘だが(あの家族供はどんなの連れてきたところで否定してくるのは目に見えてるので)、この件に関しては、何よりも僕の意向が優先されるべきなので、決して間違いではない。
そんな、僕のお願い事。
「…………僕と、アー君を、婚約させて下さい」
それは、王太子である彼との婚姻である。