秋風村とアイヤン村
ここは、広々とした村だった。この村は、秋風村という名前だった。
しかし、ある日。
何者かが攻撃を仕掛けてきた。そのことがわかった途端、村のみんなは「またか…」と思った。誰にとっても、相手は想像できた。アイヤン村の人たちだと。アイヤン村の人たちを、彼らはアイヤン族と読んでいた。
実は、それ以前から、アイヤン村の人たちとは、対立関係にあった。アイヤン族は、結構な頻度で村を襲ってくる。しかし、撃退することは容易であった。なぜなら、秋風村とアイヤン村は距離にして20km離れており、襲ってくることは見張り台から見ればわかり、おまけに20kmというと、時速4kmで歩いたとしても5時間かかる。つまり、この村に着く頃には、ヘトヘトになっていて争いどころではなかったのだ。さらには、村長の妻のアレも…
「あれ?」
秋風村の住人が異変を感じたのは、アイヤン族がしっかりと目視できるようになってからだった。
「おい、奴等おかしくねぇか?」そう言ったのは、見張り台の見張り担当・ブドだった。
「なぜだ?」もうひとりの見張り担当・ドウが聞き返す。
「だって、全然疲れてないじゃん、あいつら」
「確かに」
そうやって彼らの前で進軍を続けるアイヤン族は、いつもと違って全然疲れてなどいなかった。
「かかれ〜」
いよいよアイヤン族が秋風村についた。アイヤン族の棟梁が指示を出した。アイヤン族は、秋風村に攻撃を仕掛けたのだった。
数時間前、アイヤン村。
「どうやったら秋風村に勝てるのだろうか…」アイヤン族の棟梁は、考えこんでいた。
過去、秋風村に攻め入ったものは全て撃退されている。それでも戦いをやめないのは、ある理由があった。
実は、最初に戦いを起こしてきたのは、秋風村の方だった。食糧難だから、というのが一番の理由らしい。
でも、20kmはそう遠くない距離だ。秋風村が冷害の被害に遭っているのであれば、こちらも少しばかりは遭っていないとおかしい。
あのとき、秋風村はアイヤン村も食糧難だということを知ってもなお、進軍を止めなかった。アイヤン村はめちゃくちゃに襲われ、少ない食糧もほとんどを持っていかれた。戦いでなんとか生き延びても、餓死する者もいた。
その後、アイヤン村は復興を目指した。しかし、復興を目指す村にとって、仲間の心というものは大切だ。実際、ほとんどの村民は秋風村のことがトラウマになっていた。一部の者は、それを「仕方ない」とし、このことについてけじめをつけた。だが、もう一部の者は、そのことを「憎しみ」に変え、秋風村および村民に対して暴行、恐喝、強奪などを行った。時が流れるにつれ、後者はグループ化されていった。つまり、秋風村を襲う組織が誕生したのだ。その組織を、秋風村の住人は「アイヤン族」と呼んだ。前者もそこに含んで呼んでいたため、前者の考えだった人も組織に寝返る事態まで起きた。このことは、アイヤン村の中でのみの情報とされ、秋風村含む外部に漏らすことはなかった。
やがて、どんどんアイヤン族が規模を拡大していった。全ては秋風村への復習のために。しかし、何度襲いかかるも、秋風村には勝ったことがなかった。
あるときには、秋風村の村長が子供を産んだとの報告があった。当然のように、アイヤン族はこの日も秋風村を襲撃したが、当然のように勝てなかった。
またあるときには、秋風村に対して強い憎悪を持つ者がアイヤン族の棟梁に就任した。棟梁は当然のように秋風村を襲撃したが、これもまた、当然のように勝てなかったのである。
どうあがいても、弱者は強者に勝てない。アイヤン族の棟梁は、その事実を目の当たりにした。
ならば、どうやったら勝てるのか。どうやったらその常識を覆せるのか。棟梁は考え込んだ。それが、数時間前の出来事である。
「力が欲しいか」この一言で、棟梁は考え込んで下に向いていた頭を上に上げた。するとそこには、かつて棟梁が母に教えてもらった昔話に出てきていたものが立っていた。
「昔々、ある村に人が住んでいました。その村に住んでいた人たちは、別の村と対立を起こしていました。彼らは、その村に勝つために魔王あいうえおと契約を結びました。このおかげで、見事村は勝利を…」
これが、昔話の、最初の部分のあらすじだ。棟梁は、昔想像した魔王あいうえおのイメージ像と、目の前にいる者が、合致していることを不思議に感じた。
「あなたの名前は?」棟梁が尋ねる。
すると、こんな声が返ってきた。
「吾輩は、魔王あいうえおである!」
次回「秋風家とアイヤン族」




