二人の幼なじみ
「冗談は辞めてもらえないですか? 須賀先輩」
俺は、正面の岬の話しかける。
「クスクス」
岬は、笑い始める。
「……」
後ろにいる、須賀先輩の姿をした岬が静かに俯瞰している。
「何が可笑しいんですか? 先輩」
「何って? 隼人。私は岬だよ。後ろにいるのが須賀先輩だから」
「はっ? いい加減なこと言うな」
「須賀先輩から聞いてないの?」
「どういう事だ」
「隼人、私たち一度離れたでしょ。あの二択の扉の時」
「二択の扉?」
「貴方は男ですか、女ですかの扉。私扉に入ったら須賀先輩がいたんだよ」
「須賀先輩が?」
「そう。そして、その時に須賀先輩は私を助けてくれたんだよ。その装置を使って」
「そんな事……」
俺は、動揺する。
話の辻褄は合っている。
俺の袖を須賀先輩の姿のした岬が袖を掴む。
「騙されないで。あれは須賀先輩だよ。隼人」
後ろから、須賀先輩の声が響く。
「!! 何いってるの? 須賀先輩。私が岬だよ。隼人」
正面からは、岬の声が投げ掛けられる。
俺は頭が混乱する。
「そういえば、隼人……佐久間先輩は?」
正面の岬が問いかけてくる。
「佐久間先輩なら、俺らを助けるために……死んだよ」
「!! 佐久間先輩が。どうして須賀先輩。助けてくれるっていったじゃない」
「どういう事だ?」
俺は正面にいる岬に問いかける。
「私、須賀先輩に言われたの。佐久間先輩が指定医と入れ替わって死にそうだって。必ず助けるからって」
俺は、須賀先輩に振り向く。
「騙されないで隼人。私は、あの扉の中にいたとき誰にも会ってない。あったのはガラスのテーブルに貼られた正解の解答だけだった」
「嘘付かないでよ。須賀先輩。隼人、信じて。私が岬だよ」
俺は、考える。
二人の話にはどちらも辻褄が合わない所はないように見える。
『私が、岬だよ。隼人』
二人の幼なじみが俺に解答を求めてくる。
俺は、どう応えていいか頭をかかえる。
「ねえ、隼人……」
正面の岬に声をかけられる。
「誕生日……一緒に祝おうって約束したよね……」
「騙されないで。隼人。あのモニターで監視していたから知っているだけ」
「……」
俺は、ふと頭に浮かんだ言葉を二人に問いかける。
「なぁ、岬の誕生日っていつだっけ」
その問いかけに、正面の岬は、
「何言ってるの。隼人」
話しかけられ、
後ろの須賀先輩の姿をした岬は、
「書斎に居たときに話したじゃない、隼人」
とお互い答えを口にした。
「8月25日だよ」
正面の岬は答え、
「来月の第4日曜日だよ」
須賀先輩の姿の岬は答える。
「……そうか分かったよ」
俺は、袖を掴む須賀先輩の手を払い、正面の岬に歩み寄る。
そして、正面の岬に背を向け、睨み付ける。
「あなたが須賀先輩ですね」
俺は、岬の声真似をする須賀先輩に向かって言葉を放つ。
「何で隼人? だって書斎で話したじゃない」
「確かに話したよ。岬は来月の第4日曜日だって」
「じゃあ、何で……」
「それは、俺の誕生日の日について覚えやすいって言っていただけだ。もし、誕生日を聞いたら普通なら月日を言うはずだ。そんな回りくどい言い方はしない」
「けど、それだけじゃ……」
「それ以外にも、あの三階での指定医の時のスイッチの件もそうだ。俺は、指定医が隠し持っていたと思っていた。しかしそれは須賀先輩が手引きしていたと考えると納得もいく。やっぱり貴方が須賀先輩だよ」
「隼人……」
「疑って悪かった……岬」
俺は、顔だけを岬に向けて謝罪する。
「……」
正面にいる須賀先輩は頭を下げ言葉を発しない。
「先輩……」
「どうなんですか? 須賀先輩」
後ろから、心配そうに岬が声をかける。
「……はは」
正面にいる須賀先輩が体を震わせながら声を発する。
「はははははははははははは。隼人くん。そうだよ。私が須賀だよ」
「先輩……何で……」
岬が、震えるような声で問いかける。
「何で? ははは。ここまで来てまだ解らないの?」
「……あの実験か?」
俺は、指定医室にあった資料を思い出す。
「実験……?」
「岬も入れ替わりの装置については知ってるよな。三階にあった指定医室に入れ替わりの装置の被験実験の資料があって、その中には失敗するパターンがあったんだ。今回のように岬と須賀先輩の入れ替わりの場合は年齢差がないから問題ない。ただ、須賀先輩はその前に……」
「流石だね、隼人くん。そう、私はあの資料にあった被験者の1人。それじゃあ、もう解るよね。私が今どういう状況か」
「……被験実験④:被験対象が幼児同士の場合。脳内信号は問題なく転移できるようである。但し、生体の相性が悪い場合、生体に何らかの異変が起こる場合がある。相性は概ね12歳から15歳までに発現する場合がある。これじゃないか」
「本当に優秀ね。隼人くんは。さっさとあのカメラマンのように薬付けにして始末しとくべきだったよ」
須賀先輩は、俺に向かってにこやかに話しかけてくる。
「じゃあ、須賀先輩のその体は……」
「そうだよ。隼人くん。私のこの体は、別の人の体なんだよ。そしてこの持ち主はもうこの世にはいない」
「……どうして……そんな事を……」
岬は、須賀先輩に問いかける。
「まだ、解らないんだ。岬ちゃんは」
須賀先輩は、少し苛立ちながら岬に話しかける。
「それは、幼児期の本来の須賀先輩の体に異変があったからじゃないですか? 先輩」
「体に異変……」
岬は、俺の言葉に反応する。
「隼人くんは解ってるみたいだね。引き延ばしても仕方ないから答えるよ。そう、隼人くんの言う通り、私は生まれたときから心臓が悪くていつ死んでもおかしくなかった。その時ね、お父さんが開発着手していた入れ替わりにの装置だったんだけどその、被験者に私がなったの。その時、お母さんはこの病院の指定医をしていたからここにいた乳児を1人選んで私に使用した」
須賀先輩は、俺と岬に淡々と語っていく。
「けど、失敗した……。いや、それを後から気づいたってことか」
「どういうこと? 隼人」
「さっき話していた被験実験の資料だけど、幼少期同士での入れ替わりは問題なく見えるが、その後に副作用がでてくる」
「!! 何かしらの異変が起こるって記述」
「そう、多分須賀先輩は……」
須賀先輩はにやっと微笑み返す。
「そうだよ。私の体には異変が起きている」
「その異変って……」
「岬ちゃんは気づいているよね」
須賀先輩は、岬に訪ねてくる。
「……異変ってもしかして胸の傷のこと……」
「傷?」
「うん……、二階で着替えていた時ね……胸元に手術の傷があった。その事……」
「はい。正解」
そう言うと、須賀先輩は服に手をかけ上に捲りあげる。
「これが、答えだよ」
脱いだ服から、須賀先輩の肌が露になり裂かれた傷の痕が姿を表した。
「胸の傷……まさか須賀先輩の異変って心臓……」
俺の問に、須賀先輩はにやっとする。
「そうだよ隼人くん。私は、心臓病を患っているんだよ。皮肉だよね。入れ替わっても同じ病気になるなんて。どう? 滑稽でしょ」
「……じゃあ、須賀先輩の目的って……誰かと入れ替わって病気を……」
「少し、違うかな……」
俺の言葉を遮って言葉を返す。
「私はね、ここで実験していたの」
「実験……」
「そう、不老不死の実験」
「不老不死……」
俺は、突拍子もない解答に言葉を失う。
「不老不死って……そんな事できるはずない……」
岬は、須賀先輩の言葉を否定する。
「そうかしら。貴方たちはその人たちに会っていたと思うけど」
「それって、もしかして……」
俺は、頭の中の解答を口に出す事を戸惑う。
「隼人くんは、本当に勘がいいね。そうだよ。二階にいたお父さんも三階にいたお母さんもそして隼人くんが会った一階の看護婦もみんな実験の結果の産物だよ」
「そんな事って」
岬は、ガタガタと震える。
「けどね。不老不死の実験には人が沢山必要だったの。最初は、閉鎖病棟の患者を利用したけど足りなくてね。その後は病院に対して批判的な人たちを実験台にして最終的にお父さんたちが被験者になったの。副作用は沢山出たわ。感情を制御出来なくなったり、肉体が朽ちてきたり、老化が勢いよく進んだりね。本当に大変だったわ」
「狂ってる……」
俺は、にこやかに話す須賀先輩を睨み付ける。
「ふふ。けど、もう少し。もう少しで完成するの。不老不死の実験が。そのために隼人くん、岬ちゃんにはここで実験台になって貰わないとね」
「何言っている。俺たちはここから出る」
「ふふふ。じゃあ、最後に私からここから出るチャンスをあげる」
「チャンスだって。そんな言葉にのるわけ……」
俺は、須賀先輩に話しかけている途中だった。
視界が歪み、その場に倒れる。
「やっと効いてきたね」
正面の須賀先輩は、右手に注射器を持っている。
「さっきね。こっちにいるときに射しておいたの」
「隼人」
岬が俺に 歩み寄る。
「大丈夫。単なる睡眠導入剤だから」
「どうして……こんな事を……」
「ふふふ。それは目を覚ました後のお楽しみ」
須賀先輩はニタニタと笑っている。
「くっ……くそ……」
俺の視界が徐々に狭まっていく。
「隼人!!」
俺は、岬の声を最後に意識を失った。




