真実と四階
「大丈夫か? 岬」
「うん……大丈夫……」
大丈夫そうでない返答が岬から帰ってくる。
「……階段を昇る前に寄りたいところあるんだがいいか?」
「何処に……行くの……」
「佐久間先輩のいた部屋だよ」
「佐久間先輩が……」
「そう」
「何で、行くの……隼人」
「気になることがある」
「気になることって」
「着いたら話すよ」
「わかった……」
短い会話を交わしながら、俺たちは四階へ昇る階段を通り抜け、指定医室に向かった。
「これって……」
岬は、初めて見る指定医室を見て手で口を塞ぐ。
「俺たちは、ここで見られていたようだ」
「じゃあ、あの指定医が?」
「いや、違う誰かだと思う」
「……どうして?」
「佐久間先輩の姿を見てどう思った?」
「どうって……」
岬は顔をしかめる。思い出したくない様子だ。
「あの状況で、監視役としては成り立たない。佐久間先輩に入れ替わった指定医をみていたからそう思えたかも知れないがいないとしたら……」
「……他にも、誰かがこの病院にいる」
「そうなる。つまり、ここにはもう一人いたんだ」
「けど、それだけじゃ……」
「他にもある。佐久間先輩と指定医を入れ換えをした人物は誰だ」
「それは、指定医じゃ……あっ……」
「そう。あの状況で装置を使うことなんて出来ない。つまり、装置を使うことを手引きした人間がここにいたことになる」
「誰なの……」
「これまでの中で考えると一人しかいない。須賀先輩だよ」
「須賀先輩が……」
岬の顔が青ざめる。
「まず、最初にこの病院に来たときから話せば、俺と岬が閉鎖病棟に続く扉を調べていたとき、佐久間先輩と須賀先輩が倒れていた。岬は、逃げるようにして走り出したから二人の状況を確認出来ていない。その時、須賀先輩は倒れた振りをしていたんじゃないかと思う」
「どうしてそんな事を……」
「俺たちをこの病棟に閉じ込める為だろう」
「じゃあ、理由は……」
「それは、三階にあった写真立ての写真で納得がいく」
「写真立て……」
「書斎にあった幼少期の須賀先輩と大人の男女の二人の写真。あの、男女二人。心当たりがないか」
「心当たりって……分からないけど……」
「俺も、あの時は分からなかった。けど、指定医の服装を見て確信した。二階に居た白衣の男と三階に居た指定医はあの写真立ての二人だよ」
「じゃあ……あの二人は須賀先輩の父母ってこと……」
「いや、それは分からない。けど、関係はあるってことだけは分かる」
「じゃあ、須賀先輩は何のためにこんな事を……」
「それを、ここで調べようと思って来たんだ」
「……何を調べればいい。隼人」
「気になる物があれば何でも。俺に声をかけてくれ。岬」
「分かった……」
俺たちは、指定医室の部屋の中を確認する。
モニターの他にも、書籍や資料などが散乱しており手分けして目を通していく。
「これって……」
「何か見つかったの?」
「これを見てくれ。岬」
俺は、岬の元へ駆け寄り一冊の資料を見せる。
『生体電気信号の転移実験調査書』
俺と岬は、手元の資料を一緒に目を通す。
資料には次のように内容は書かれていた。
『この実験は、一人の脳内電気信号を別の被験者と入れ替える事によりどのような症状が起こるかを調べた調査の結果である。調査の結果は以外の通りである』
『被験実験①:被験対象が成人、幼児の場合。幼児が成人の脳に入ることは問題ないようである。しかし、成人が幼児の体に電気信号を移転した場合、脳に負荷がかかり数時間の間に脳内が死滅することが確認された。また、幼児の定義は6歳未満とする』
『被験実験②:被験対象が16歳以上同士の場合。脳内信号は問題なく移転できるようである。しかし年齢の差が大きければ大きいほど脳内信号に齟齬が発生する場合がある。齟齬が発生する年齢の差は概ね、加減10歳までとされる』
『被験実験③:被験対象が6歳以上15歳以下の場合。同年齢同士の場合は脳内信号は問題なく移転可能である。しかし年齢の差が大きい場合、脳に負荷がかかり脳内が死滅する事が確認できる。年齢の差は概ね、加減5歳までとされる』
『被験実験④:被験対象が幼児同士の場合。脳内信号は問題なく転移できるようである。但し、生体の相性が悪い場合、生体に何らかの異変が起こる場合がある。相性は概ね12歳から15歳までに発現する場合がある』
「これって……」
「多分、この装置の実験の結果だろう」
俺は、手元にある帽子型の装置を岬に見せる。
「じゃあ、私と須賀先輩が入れ替わったのは……」
「被験対象②だから齟齬もなく入れ替わったみたいだな」
「佐久間先輩の場合は齟齬が発生するかも知れなかったってことだよね……隼人」
「多分、時間がなかったのだろう。もう、指定医自体死ぬ直前のようだった。だから佐久間先輩の体で強行したわけだな」
「そんな……」
「それと、過程だけど1つ浮かび上がる事がある」
「過程って?」
「この閉鎖病棟の事。ここは、この装置の実験場だったんじゃなかってことだよ」
「実験場って……」
「まず、この資料。この被験実験の結果を見ると、何十人、何百人の犠牲がなければ調べられなかったはず。その実験はじゃあどうやって行っていたか。ここは、精神疾患のあった人が集まった閉鎖病棟。この大きさだ。数多い人達がいただろう。そう考えれば辻褄があってくる」
「そんな……」
岬は、その場で震えている。
「……行こう。四階へ。そして確認しに行こう。そこにいるはずの須賀先輩の元へ」
「……わかった。聴きに行こう。須賀先輩がどうしてこんな事をしたのか……」
「あぁ」
俺と岬は、指定医室を後にし四階に向かう階段に向かう。
「隼人……」
向かう途中、岬に声をかけられる。
「どうした?」
「私は、隼人を信じていいよね。私に何かあっても助けてくれるよね?」
「何言っているんだ?俺は必ず岬を助けるよ。裏切ったりしない」
「ごめんね……変なこと聞いて……。ありがとう」
「あぁ。心配するな」
そんな会話をしている内に、四階に続く階段が目の前に現れる。
「じゃあ、行こうか。岬」
「行こう。隼人」
俺たちは、四階に続く階段を昇る。
昇りきると、大きなフロアが現れる。
フロアには、受付のカウンターがあり呼び出しを待つための椅子が並べられていた。正面には大きな扉がある。
加藤さんの資料にあった外側から鍵が掛かっていて開かない扉だろう。
その扉の前に人影があった。
それは、見慣れていた幼なじみの姿。
ニコッと微笑みながら俺に声をかけてくる。
「待っていたよ。隼人」
聞き慣れた声が、四階のフロアに響き渡る。




