最終選択と別れ
俺は、岬と離れ長い通路を走っていた。
通路は、加藤さんの地図どおりになっている。
「ここが、本来の三階か」
見取り図を確認する。
「まずは、階段っと」
俺は、階段を確認する。
見取り図通り四階に上がる階段を確認する。
「やっぱり、見取り図通りだ」
俺は、佐久間先輩のいそうな場所を確認する。
「ここしかないか……」
四階に昇る階段を通過し目的の部屋に足を向ける。
「ここか」
俺は、一室で足を止める。
『指定医室』
プレートの張られた部屋のノブを開く。
開いた扉の先を見て、
「なんだよ……これ……」
俺は、その場の状況に言葉を失う。
そこには、大小合わせてモニターが壁一面に敷き詰められ、さっきまでいた謎解きの部屋や二階、一階の部屋がモニターされていた。
「監視されてたって訳か……」
俺は、部屋を確認すると、大きな机に伏せた人影を見つける。
「だ……れ……だ」
伏せた、人影が俺に話しかけてくる。
「お前こそ誰だ……」
俺は、伏せている人影の言葉に返事を返す。
「みず……の……くん……か?ぶじ……だった……のか」
「佐久間先輩!!」
俺は、人影に向かい歩み寄る。
「うっ」
俺は、人影を見て吐き気を催す。
そこには、白衣に身を纏った女性だったものがそこにあった。
一言で言えばミイラと言うのが正しいだろう。
「佐久間先輩……」
「みず……の……く……ん。ぶ……じで……よか……た」
「どうしてこんな事に」
「あ……の女が……そこ……にある装置……をつか……ったら、体が……入れ替……わって……」
俺は、佐久間先輩の話していた装置を確認する。
帽子型の装置で、2つの帽子型の装置が頭部部分から配線で繋がっており、1つの帽子には何個かのボタンが確認できた。
「これが、入れ替わるためのの装置……」
俺は、その装置を手に取る。
「ゴホッ……ガバッ……」
「大丈夫ですか。佐久間先輩」
「小……生は……もうだ……めだ……」
「大丈夫です。今から先輩を指定医の元に連れていってこれを使えば……」
「け……ど、小生は……もう……歩けない……」
俺は、先輩の状況を確認する。どうやら足は腐敗して今にも崩れそうだ。
「何かないか」
指定医室の部屋を確認する。
「これを使おう」
俺は部屋の隅に置いてあった車イスを手に取る。
「これに、乗って指定医のいる部屋まで連れていきます」
「水野……くん。けど、小生は……もう……」
「諦めないで下さい。絶対に助けます」
「水野……くん……」
俺は、車イスに佐久間先輩を乗せる。
「よし、それじゃあ、岬の元へ……」
そう思った瞬間だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴が、病院内に響き渡った。
「岬!!」
俺は、佐久間先輩を乗せた車イスを引きながら急いで岬のいる部屋に戻る。
戻ると、そこには上を見上げる岬とほくそ笑む指定医がそこにいた。
「どうしたんだ、岬」
「隼人……上……」
「上って……天井に何が……」
俺は、天井を見上げるとその状況に言葉を止める。
天井には無数の針が隙間なく押し詰められ、少しずつ俺たちの元へと迫ってきている。
「なんだよ……これ……」
「あははははははははははは」
手錠をかけられた、佐久間先輩姿の指定医が大声で笑い始める。
俺は、指定医の手元を見る。
1つのボタンだけ備え付けられた装置を手元に持っていた。
「お前、どうやってそのボタンを……」
「ごめんなさい。隼人。目を離した隙に……」
「さて? どうしますか? 残り約15分って所ですか」
「くそ、一先ず先輩を助けないと」
「隼人。先輩ってまさか今、車イスに乗っている……」
「あぁ、そうだ。岬と一緒で入れ替わっているみたいだ」
「そんな……」
岬は車イスの佐久間先輩を眺める。
「みり……くん……? いや……話し方を聞くに……ひめ……のくん……か。ぶじ……だったのか……」
「ねえ、隼人。先輩、助かるの?」
「多分、これを使えば」
俺は、入れ替わりの原因になっただろう帽子の装置を取り出す。
「これが、入れ替わりの……」
「あぁ、これを使えば先輩は……」
「いいんですか。ここで使ってしまって」
指定医が、俺たちの会話に割り込む。
「どういう事だ」
俺は、指定医に言葉を返す。
「だって、その装置後、一回しか利用出来ないなら」
指定医は、ニコッとこちらに微笑む。
「でたらめを言うな」
俺は、怒りを込めながら声をあらげる。
「多分……それ……嘘じゃ……ない」
車イスの佐久間先輩が俺に声をかける。
「先輩……嘘じゃないって……」
「その……装置を使って……入れ替わった……時言っていた……。あと……一回で終わりか……って」
「隼人さん。彼のおっしゃる通りです。どうしますか。今までアナタタチニたくさんの二択を迫りましたが、今回が本当に最後です。もしも、そこにいる車イスの彼を助けるならば、岬さんはこの後、入れ替わったまま過ごしていただくことになるでしょう。しかし、ここで彼を助けずに二人で出られたのなら入れ替わりの装置は岬さんのために利用できます。さあ、貴方はどちらをエラビマスカ?先ほどの話をして、残り時間は10分程度ですか……。さあ、オエラビクダサイ。サイゴノセンタクヲ」
「……くそっ、どうしたら」
俺が、悩んでいると……
「……いいよ。隼人。佐久間先輩に使ってあげて」
岬が、俺の肩に手をかけ、話しかける。
「けど……」
「いいよ。私はこのままで。もし、佐久間先輩に使わなくて私が元に戻っても私、絶対に後悔する。佐久間先輩の犠牲で今の私がいるって。だから使ってあげて。佐久間先輩ために」
「岬……」
俺は、岬の意見を呑もうとすると、
「いや……、小生は……いい……。ここから……ふたり……でにげ……てく……れ」
佐久間先輩が俺たちに言葉をかける。
「けど、佐久間先輩……」
岬は、佐久間先輩の言葉に返事を返す。
「小生……が……ここに……つれてきた……。ふたり……が……いきて……たことが……ほんとうに……うれ……しい。せき……にん……は……小生……とる……。だから……」
「そんな事出来るわけない」
俺は、佐久間先輩に向けて叫ぶ。
「いい……んだよ。みずのく……ん。小生は……きみたちがた……すけにきて……くれたことが本……当にうれしか……った。それ……だけで十分……だよ。だからは……やくにげて」
「けど……」
俺は、頭を下に下げる。
「……。ひめのくん……をまもって……あげられるのは……今は……きみだけ……はや……く……。時間……がない……」
「くっ……」
俺は、岬の手を握る。
「行くぞ。岬」
「駄目だよ。隼人。このまま、佐久間先輩を置いていくなんて」
「ひめのくん……いいん……だよ。小生は……」
「けど……」
「岬。もう、時間がない。行くぞ」
岬を無理やり扉まで引っ張りつれていく。
「これがアナタタチニのセンタクデスカ。ゼツボウに歪んだ顔を見れて、ほんとうにウレシイカギリデス。あははははははははははははははははははははははははははははははは」
笑い声が、部屋中に響き渡る。
「みず……のくん、ひめの……くん。ほんとうに……ありが……とう」
『ガコン』
天井から降りてきて、無数の針が、部屋中に振り下ろされ、指定医と佐久間先輩を串刺しにした。
「なんで……隼人」
俺の手を強く岬が握ってくる。
「どうして、佐久間先輩に使わなかったの。私は覚悟していたのに。何で……」
「俺、気づいていたんだ。どうやっても佐久間先輩を助けられなかったこと……」
「えっ……」
「あの状況で助けるには、佐久間先輩と指定医にこの装置を使って入れ替えた後、逃げるしかなかった。けど、入れ替わったとして1つ重要なことがあった」
「重要な事って……」
「手錠だよ。もしも、入れ替われたとしてもその手錠を外す時間がなかった。本当は、入れ替わった後に俺たちが回りにある武器で壊す予定だった……けど」
「天井が降りてきて、時間迫っていたって事だね……」
「あぁ、その状況を知った佐久間先輩は俺たちを助けるために自らを犠牲にする選択をしたんだ……」
「そんな……」
岬は、その場に崩れ落ちる。
「……行こう。岬」
「……」
「佐久間先輩の犠牲は、俺たちを助けるために使ってくれた。俺たちは、それに報いなければいけない。行こう。岬」
「……わかった。行こう……隼人……」
俺は、岬に肩を貸し長い通路を歩き出した。




